それは誰のための議論なのか 「トランスジェンダー問題」を考える
「トランスジェンダー」と聞いて、どんな人を想像するだろう。社会の中で圧倒的に少数であるトランスジェンダーは、今、性別で分けられたスペースの議論の中で、大きな「問題」として扱われている。英書「トランスジェンダー問題」の翻訳者・高井ゆと里さんは語る。まずトランスの人たちの「現実」を知ってほしい、と。
性別から逃れられない社会
――「トランスジェンダー」とはどんな人たちを指すのですか。
「世界的に0・5~0・7%と言われ、圧倒的に数の少ないマイノリティーですが、確実に存在する人たちです。よく使われるのが、『身体の性別と心の性別が異なる』という説明です。分かりやすいですし、トランスの人は自分の身体と付き合うのが大変な面もあるので、言い当てていないわけではありません。しかし私は、『この性別で死ぬまで生きなさいという課題を背負いきれなくなった人たち』と説明しています」
――「課題」ですか。
「私たちはみな生まれた時から、『男の子として生きなさい』『女の子として生きなさい』という課題を背負っています。社会が負わせるその課題に対し、『その性別では生きていけない』『つじつまが合わない』と感じているのがトランスジェンダーです。私たちは電車の中や道で知らない人を目にした時、まず『男か女か』を判断します。誰もが『男』『女』として存在させられているとも言えるでしょう。性別を元にした仕組みや制度も至る所に存在します。今の社会で、性別から逃れることはできません」
最大の困難は貧困とメンタルヘルス
「そして、『この性別で生き…