原点は「夫に浮気相手がいたら…」 大賞「ゆりあ先生」入江喜和さん
入江喜和さん(56)のマンガ「ゆりあ先生の赤い糸」が手塚治虫文化賞(朝日新聞社主催)のマンガ大賞に選ばれた。50歳の女性を主人公に、介護、不倫、性的少数者、コロナ禍など現実の社会を巡る話題を交えながら、夫婦や家族の形を考えさせる作品だ。「ダンナに若い浮気相手がいたら……」という雑談から始まったという物語執筆の経緯や込めた思い、物語完結後の登場人物たちについて語ってもらった。
――手塚治虫文化賞マンガ大賞の受賞が決まりました。ブログではノミネートについて「それ誰の話やねん感」と表現されていました
他のノミネート作品が強豪ぞろいだったので、見た瞬間に「受賞はないな」と思って、安心して暮らしていました。受賞はうれしいですが、こういう仕事をしていますから、「死亡フラグ」なんじゃないかと思ってしまいますね(笑)。
――手塚治虫さんの名前を冠する賞です
「三つ目がとおる」が特に好きでして。小学校の頃、クラスの中に漫画図書館を作ろう、みたいなのがあって、そこに置いてあった。なんとなく手に取ったら、「面白いじゃん!」と思い、全巻買ってしまいました。読んでしばらく、考古学者になりたいと思っていましたね。
――受賞作の主人公は手芸教室の先生で、50歳のゆりあ。夫の吾良(ごろう)がくも膜下出血で倒れると、青年男性の愛人リクがいることが判明。さらに子どものいる女性の愛人?みちるの存在も発覚するも、まとめて家に呼び寄せ、共同生活が始まる……という物語ですが、執筆の経緯は
手塚先生のような壮大な話を、私は作れなくて。半径1~3メートルぐらいのところで話を考えています。
自分と世代の近い編集の方と雑談していた時に、「ダンナに若い浮気相手とかいたらどうしますかね」という話になったことがあって。私は「最初は『えっ!』て思うけど、相手が若い子とかだったら、何か困っているんじゃないか。『うちに呼んできてもいい』って言うかもしれない」と話したんです。実際はそんなに心広くないですけど(笑)。
その編集の方が「それは面白いから漫画にしませんか」と。そのときに話はそれで終わったんですが、その後「たそがれたかこ」という作品を連載して、それが終わり、さあ困っちゃったという時に、当時の担当の人にその話をしたら「それ、いいんじゃないですか」「浮気相手が男性だったら、というのはどうですかね」となって。そのうちにまた担当の方が代わって、「バレエを入れてみたらどうでしょう」と言うので、とりあえず全部ぶっこんでみた感じです。
――介護を描かれたのは、ご自身の経験が大きいのでしょうか。
そうですね。去年の春、母を92歳で施設にお願いするまで、家で介護していました。母は70代の頃は家事もやってくれていたんです。でも、そういう状態を保てていたのは、83~84歳くらいまで。その後は「え、そんなこともできなくなっちゃうの」という感じで大変でした。
80の後半ぐらいは医者にもよく行っていましたし、認知症で自分がどんどんボケちゃうのがつらそうだった。家族もイライラが絶えなくなって。よく介護を巡る殺人事件が起きますが、そういうことはあり得るんだな、と思いました。介護って、助けがないと無理です。一人で何とかしようなんてやったら、とも倒れになっちゃう。
――介護を通じて赤の他人が共同生活をします。家族や夫婦という形、枠から解放される物語なのかな、と思いました
「少女漫画がやりたかった」という入江喜和さん。記事後半では、50歳ゆりあと20代ゆーやの恋愛の今後や最終盤でコロナ禍を描いた理由、小池一夫さんの「劇画村塾」で学んだことなどについて語ってもらいました。
私の漫画は関係ない他人がう…