大泣きした小説が現実に… 主役は電器屋さん、最北の街から愛を込め

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若松真平
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 日本最北の街、北海道稚内市で電器店を営む山本進さん(55)。

 生まれも育ちも稚内で、修業のために東京と札幌でそれぞれ半年ずつ過ごした以外は、ずっと地元で暮らしてきた。

 照明や暖房機器などの販売、設置から修理までこなす「町の電器屋さん」ことヤマモトデンキの2代目だ。

 昨年末から正月にかけて店を休み、東京で暮らす息子に会いに行くために飛行機で東京へ向かった。

 元日に羽田空港へ向かう機内で読もうと持ち込んだ本が「月の立つ林で」。

 昨年11月に出版された青山美智子さんの10作目で、発売日に買ったのに読んでいなかった本だ。

 青山さんの新作が発売されるたびに買って読んでいるが、どの作品がきっかけでハマったのかは覚えていない。

 ただ、どの本も穏やかな気持ちで読めて、心に明かりをともしてくれるような作品ばかり。

 期待を裏切らない中身だとわかっているから、新刊が出るたびにあらすじも読まずに買っている。

 「月の立つ林で」は、五つの章から成る連作短編集。

 ままならない日々をおくる登場人物たちが月のように満ち欠けを繰り返し、似ているようで違う毎日を紡いでいく様子が描かれていた。

 新月のように「見えないけれど確かにそこにある存在」を軸に、それぞれがつながっていく構成が見事だった。

 特に印象に残ったのが、第3章の「お天道様」。

 娘の結婚に戸惑うバイク整備士の姿に、電器屋である自分を重ねて機内で泣いてしまった。

 娘はいないし、息子2人もすっかり独り立ちしたというのに。

 声を出さないようにするのが精いっぱいで、マスクの下は鼻水と涙でグチョグチョだった。

 機内で泣いたのは37年前、高校を卒業して東京へ修業に行く時、当時付き合っていた彼女からもらった手紙を読んだ時以来だ。

    ◇

 それから4カ月後、山本さんの行動がきっかけとなって「月の立つ林で」で描かれたことが現実のものとなる。

 この日本のどこかにいる「見えないけれど確かにそこにある存在」がつながった瞬間。

 まさか作者である青山さんを泣かせてしまうなんて、思いもよらなかった。

郵便局で見かけたものは

 ヤマモトデンキはJR稚内駅…

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