長野県中野市で男女4人が殺害された事件で、殺人容疑で逮捕された青木政憲容疑者(31)は動機について、死亡した近所の女性2人に「『(ひとり)ぼっち』と言われたように聞こえ、恨みを爆発させた」などと動機を語ったといいます。
同志社女子大学の諸井克英名誉教授(社会心理学、博士)に、この事件をどう考えればよいかを聞きました。
「孤立」と「孤独」
――今回の事件では、「ぼっち」という言葉がキーワードのように思えます。
まず、「孤立」と「孤独」は異なることを理解することが重要です。
その人が社会的関係をどのように営んでいるのか。つまりどのような対人関係を望むかという「願望水準」と、実際に獲得した「達成水準」との食い違いの程度が大きくなると、その人は孤独に陥ることになります。
もう一つ重要なことは、次の三つの「居場所」です。一つ目が自分が他人に必要とされ、資質や能力を発揮できる「社会的居場所」。自分であることを取り戻すことができ、安らぎを覚えることのできる「人間的居場所」。最後が群衆の一員となる「匿名的居場所」です。
報道を受けての推測ですが、青木容疑者の場合、高校時代まではどちらかというと他者との関係を築くことに消極的な印象で、社会的居場所が十分に形成できていなかったと推察します。
ただ、おそらく人間的居場所、つまり安らぎを得られる何らかの「安心基地」が家庭内にあったのではないかと思います。
外形的には1人ぼっちだったとしても、何とか家族を中心に心の安定がはかられていたのではないでしょうか。
孤独に陥りがちな大学入学直後
――青木容疑者も、母親への話として、大学でいじめられて対人関係が苦手になったという説明をしています。
大学入学に伴い、学びと生活のかたちが一変します。大学入学初期の環境変化に適応できずに、心が不安定になることは一般的によくあります。
ただ、そうした事態に陥って…
- 【視点】
自尊心がひどく傷ついている状況で(周囲はそんなつもりはなくても)周囲の冷たい視線を感じたとき、それは「(ひとり)ぼっち」と言われているのと同じように感じられるのかもしれない。そのように考えると、「それぞれの個性を生かした自立や社会とのかかわ
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