組んでいた腕がそっと解かれた… みたらし加奈さんが忘れ得ぬ光景は
Re:Ron連載「みたらし加奈の 味方でありたい」(第1回)
【加奈さん、こんにちは。いつも加奈さんの言葉が心のよりどころになっています。私はトランスジェンダー女性です。最近、ネット上のトランスジェンダーに対してのバッシングの記事やツイートを見ては落ち込んでいます。いまはリアルの日常のなかでもそんな話を聞くようになりました。
私は手術をして戸籍も変更していますが、いまだに自認の性である女子風呂に入ったことはありません。また、自分の周りにはカミングアウトできておらず、「いまさら誰にも話せないな、話すのが怖いな」という気持ちが前よりも一層大きくなっています。正直しんどくて、でもどうしたらいいかわかりません。こういう時の気持ちの持ちようを教えてください。】(カエル)
この連載を始めるにあたり、私のSNSアカウントを通じてセクシュアリティーや性自認に関してのおたよりを募ったところ、ありがたいことに1日で20を超えるメッセージをいただいた。一人ひとりのメッセージを読みながら、今の日本において当事者が抱える痛み、苦しみを想う。今回いただいたメッセージも含め、これからの連載で触れていきたい。
カエルさんのメッセージを読んだとき、私の脳裏には一つのシーンが思い浮かんだ。ここ最近、激化しているトランスジェンダーへのバッシングが目に入るたびに、そのシーンは私の頭で再生を繰り返している。大変申し訳ないが、カエルさんへのお返事を書く前に、ひとまずその話をさせていただけたらと思う。
私の友人にはトランスジェンダーの当事者が複数おり、そこにはいわゆるMtF(Male to Female、トランスジェンダーの女性)ということをオープンにしている友人もいる。その1人、ゆりちゃん(仮名)とはプライベートだけではなく仕事でも一緒になるような間柄で、会話をするときにはお互いをツッコミ合うような、フランクで親しい関係性である。
そんなゆりちゃんと一緒だったある日、限られた時間の中でトイレに行かなければならない時があった。私はゆりちゃんに「今のうちだよ、行こう」と促した。ゆりちゃんは力強くうなずき、私と腕を組んだ。
しかしいつの間にか、ゆりちゃんは私のずっと後ろを歩いていた。組んでいたはずの腕がそっと解かれ、歩みが遅くなるのを私は見逃さなかった。
でもきっと、私が彼女のスピードに合わせたら、ゆりちゃんはトイレに行きづらくなってしまうだろう。だから、気づかないふりをして歩いた。「早くしないと時間なくなっちゃうよ!」と、後ろにいるゆりちゃんに叫びながら。もしかしたら、ゆりちゃんは私と一緒にトイレへ入りづらかったのかもしれない。
当たり前だけれど、ゆりちゃ…