写真研究者・小林美香さん寄稿
キャッチライトの入った輝く瞳、キュッと上がった口角――。
コロナ禍以前は往来で目の端に留めるにすぎなかった政治活動用のポスターが気になるようになったのは、マスク生活で人の顔を直接見る機会が激減したことも影響しているかもしれない。公共空間に掲出される広告や広報に着目し、それらの中でのジェンダー表現を論じた『ジェンダー目線の広告観察』(現代書館)を執筆する過程で、時折道端に立ち止まり、ポスターの顔に見入るようになった。
公営掲示板に選挙ポスターが並ぶ選挙期間以外にも、住居や駐車場のブロック塀、往来の多い道路に面した壁面には、演説会告知用ポスターや、政党代表の写真とスローガンを掲げたポスターが反復するように掲出される。
このようなポスターが作り出す景色は日常的になじみ深いが、実際の投票行動にどのように影響するのか。
選挙で支持を得るにふさわしい人物像とはどのようなものなのか。
そういった観点から選挙ポスターの写真を観察すると、容姿や髪形、身だしなみを整え、公職の担い手として支持を得るにふさわしい人物として印象づけるために入念な演出が施されていることが浮かび上がってくる。好感度の高い人物として存在感を打ち出すと同時に、政治家という公人に求められる規範を守っていること、それが選挙ポスターに求められる「写真写り」であり、その規範は男性らしさ、女性らしさという性別二元論に根差したジェンダー規範にも深く結びついている。
“デキる男”と“女性らしさ”
「好感度が高い」とはすなわ…