内藤廣展「海の博物館」が起点 情熱×理性 人の営みとしての建築
切り妻屋根による骨太にして詩的な空間を手掛けてきた建築家で多摩美術大学長の内藤廣さん(73)の大規模な個展が、自身が設計した島根県芸術文化センター「グラントワ」内の県立石見美術館で開かれている。端正な模型を軸に、コンペ落選案や学生時代の課題まで見せる、思い切った展示になっている。
国内の美術館では初となる大規模個展全体を貫くのは「『どうだすごいだろう』というのはやりたくない」という内藤さんの思いだ。
例えば、展示は大きく二つに分かれている。実現した「Built」と、何らかの事情で実現していない「Unbuilt」だ。「(コンペ落選案などの)失敗話の方が興味を持ってもらえる」と後者の方が展示面積が広いほど。早稲田大建築学科時代の卒業設計や3年生の時に取り組んだ課題まで登場する。
「洗いざらい見せようということ。まあ、裸踊りですね。下手だったり悩んだり、そういうことをさらけ出せば、若い人にも伝わるかな、と考えた」
早くから建築界で知られる存在だったが、「建築にちゃんと腹が据わった」と明かすのは、1992年に三重県鳥羽市に完成した、漁労用具などを収集・展示する「海の博物館」だ。
連続する集成材が支える切り妻屋根の構造が魅力で、日本建築学会賞も受けている。「まだ物が入っていない完成前に幼い娘たちを連れて行ったとき、大人になればこの子たちもこの建築を分かってくれるだろうと感じた。長いスパンで意思を伝える存在に意味を感じた。エネルギーを込めれば、未来に伝わる可能性があると思った」
情熱あふれる赤鬼と、理性をつかさどる青鬼
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