第1回「またとはそばを離れません」 詩人・金時鐘さん、済州島への帰郷
海からの強い風が野山を吹き抜ける。休火山の島であることを思い起こさせる黒土の地面は、冬の冷たい雨でぬかるんでいる。
ミカン畑や雑木林に囲まれた墓地。老師は右手の杖で地面をつき、左手の傘で風雨を避けながら、ひざや腰の高さまで生い茂るいばらや枯れ草をかき分け、ゆっくりと歩を進めた。すぐ後ろを老妻が連れ添って歩く。
まるく土を盛った「封墳」のそばにたどり着くと、老師は傘と杖を置き、腰をかがめた。雨露にぬれた墓の土をあたためるかのように両手で触れ、じっとこうべを垂れた。風の流れる音だけが耳に入る。
「アボジ(お父さん)、オモニ(お母さん)の頭は。こっちの方が頭か」。老師は同行した親類にたずね、墓の反対側に移ると深く腰をかがめ、再び両手で墓の土に触れた。
老夫婦は雨天の中、沈黙して立ち続けた。石工職人らが重い碑石を軽トラックの荷台から下ろし、バーナーで土台部分を乾かし、まるい墓の前に建てるまでを静かに見守った。腰の高さほどの石碑には、老師があらかじめ送っていた「碑銘」がハングルで刻まれていた。
またとはお父さんお母さんのそばを
離れません
共に過ごせる日を待ち望んで
いつも祈ってきました
私にはやはりあの世が
身近ですごせる
永遠の場所です。
詩人の金時鐘(キムシジョン…