生き物守る約束「ほごにするなんて」 企業誘致めざす市が計画変更
「思い出すだけで息ができないぐらい悔しい」
昨年12月。北九州市の武内和久市長は市議会で、こう答弁した。「半導体企業の立地を逃した経緯についてどのように受け止め、今後の教訓とするのか」と市議から尋ねられた時だ。
世界有数の半導体受託生産会社である台湾のPSMC(力晶積成電子製造)が、日本国内で半導体工場を設立すると明らかにしたのは7月のこと。あらゆる電子機器に不可欠な半導体の需要は増すばかりで、誘致がかなえば、地域経済どころか国内経済へ与える影響は大きい。世界最大手のTSMC(台湾積体電路製造)が熊本に建てた工場には、国をあげて支援する。
北九州市もPSMCを呼ぼうと誘致合戦に名乗りを上げ、若松区の市有地を提案した。だが、最終候補地まで残ったものの選ばれず、工場は宮城県に造られることになった。
市の担当者は「相手の求める広さの土地を用意できなかった」と分析する。土地を造成するにしてもすぐに業者を手配できず、急いで工場を建てたいPSMC側のスケジュールに合わせることが難しかったという。
武内市長は昨年2月の就任以来、「稼げるまち」をめざし、自ら企業幹部に会うなどトップセールスを行ってきた。企業の誘致件数、投資額はいずれも過去最高となった。
敗因となった「三日月形」の土地
一方で、市有地の分譲率は約98%に達しており、今後誘致可能な面積はわずか約13ヘクタールしかない。
PSMCに提案した若松区の市有地は産業用地ではないが、研究開発部門を併設した施設であれば誘致が可能であることから交渉を進めた。だが、この市有地の狭さや、南北に縦長の三日月のような形状もネックだったという。「工場を建てるには、やはり四角形に近い形がよいようだ」と市の担当者は話す。
企業誘致の受け皿となる産業用地の確保は全国的な課題だ。国は、原則開発できない市街化調整区域でも建設が可能になる要件の緩和や、期間短縮のため農地の産業用地転用と開発許可の手続きを同時並行で進められるよう手続きを見直すなど、受け皿確保に向けた取り組みを強化する。九州でも福岡県うきは市や長崎県島原市など各地で工業団地造成の動きが進み、都市間競争は激しさを増す。
北九州市は誘致合戦に敗れた反省から、ネックになった三日月形の用地を四角形に近い形に造成するべく、隣接する山を一部削って最大で10ヘクタールほど拡張できないか検討を始めた。すでに都市計画上は「緑地」から変更しており、新年度予算案には追加の事前調査費用など1500万円を盛り込んでいる。
だが、この土地が三日月のような形になっているのには、理由がある。
用地が位置するのは、市北西…