「52ヘルツのクジラたち」トランス男性の描き方 悩み、伝えたこと

有料記事ダイバーシティ・共生

聞き手・畑山敦子
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 児童虐待を受けた人、トランスジェンダーヤングケアラーなど、気づかれにくい悩みや苦しみに直面する人々が登場する映画『52ヘルツのクジラたち』が公開中です。作品に「トランスジェンダーの表現をめぐる監修」としてかかわるのが、トランスジェンダー男性の俳優、若林佑真さん(32)です。性的マイノリティーを描く作品は悲劇的な表現が含まれることも多く、当事者たちが傷つくことも少なくありません。だからこそ、「伝えられることは全部伝えた」と若林さんは言います。偏見を助長せず、当事者の感情が伝わる作品になるよう心がけたこと、変えられたことを聞きました。

 ――トランスジェンダー男性の安吾、「アンさん」を演じた志尊淳さんとは具体的にどうかかわられたのでしょうか。

 志尊くんとは、セリフや表情など、細部まで突き詰めて話し合いました。約1週間のリハーサルの間はほぼ一緒にいて、その後も撮影現場に行ったり、撮影前に電話したり、ギリギリまでアンさんについて話し合っていた感覚があります。志尊くんは「何でも言ってほしい」と言ってくれて全力で向き合えました。

 印象に残っているのが、我が子がトランスジェンダーだと知ったアンさんの母(余貴美子)とアンさんが話すシーンです。

 リハーサルでは、アンさんは部屋のベッドに腰かけ、お母さんと少し距離がある位置関係でした。志尊くんは「ベッドから下りてみてもいいですか」と成島出監督に提案し、本番は同じ目線で話して演じました。母と子でありながら距離感があり、気持ちがすれ違う関係について、座り方や表情、言葉まで、「アンさんだったらこうするだろう」という演技をされていて、圧倒されました。

 ――脚本にもかかわられているそうですね。

 元々、当事者への取材ということで、成島監督やプロデューサーとお会いしました。町田そのこさんの原作が映画化されることについて思ったことなどを伝えたら、後に正式に監修に入ってほしいと依頼いただきました。

伝えたかった「絶対にだめなこと」

 トランスジェンダーが悲劇的…

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この記事を書いた人
畑山敦子
デジタル企画報道部|言論サイトRe:Ron
専門・関心分野
人権、ジェンダー、クィア、ケア
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