第3回まっすぐに挑んでいかはった「戦友」 祇園の女将が語る小澤征爾さん

有料記事音楽を生きた人 小澤征爾さんを悼む

聞き手 編集委員・吉田純子
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 小澤征爾さんが、関西で公演をするたびに訪れていた京都のスナックがある。「ぎをんてる子」を営み、お茶屋「京屋」の女将(おかみ)でもあるてる子さん(86)に、小澤さんは外国から来たアーティストの面倒を一任し、相棒さながらの信頼を寄せていた。60年を超える友情の日々を、てる子さんが振り返る。

     ◇

 私が初めてクラシックを聴いたんは、うちのお客さんやった浅利慶太さんに、フィッシャーディースカウの「冬の旅」のレコードをもろた時やったかな。でも、クラシックっちゅう文化にほんまに出会わせてくれたんは、小澤さんです。

 小澤さんとはほんまに不思議なご縁でね。初対面は料理旅館のお座敷で、米国人のマネジャーも一緒やった。私はまだ20歳くらい。現役の芸妓(げいこ)でした。最初にご結婚されたピアニストの江戸京子さんのお父上で、実業家の江戸英雄さんがお座敷によう来てくれはっていたので、その時に一緒に来られたんと違うかな。それからずっと、妹みたいに思うてくれてはったんやと思う。

 第一印象は、さっぱりしたおきゃんな子という感じでしたな。飾りも悪ぶりもしない。祇園の遊び方なんて何も知らはらへんから、誰に対しても態度はおんなじ。天真爛漫(らんまん)で、舞妓(まいこ)や芸妓からも人気がありましたな。

 知らんお客さんにも心やすく声をかけて、いつもてる子さんをごひいきにしてくれてありがとうって。道で、あっ小澤さんや、って言われはっても、はい、ぼく、小澤征爾ですーって素直に言わはる人やった。

バーンスタインやスピルバーグと

 私はちんとんしゃん(三味線)の人やから、クラシックの難しいことはわかりまへん。でもね、小澤さんの演奏だけは絶対に聴きわける自信がある。繊細なんですよ。ふわりと空気を含んで、そこから細い糸がすーっと……。あんな音を出せるのは小澤さんだけ。耳にきこえへんぐらいの、本当に絹糸のような音を出さはる。お蚕さんの糸みたいに、すーっと細い。

 ちんとんしゃんの芸も一緒です。やっぱり品がなかったらあかんわね、三味線の世界も、クラシックも。小澤さんはよう跳んではったけど、不思議とガサガサしてなくて、品があった。そして、聴いたあとも余韻が体の中にずっと残る。

 小澤さんのおかげで、20代…

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