素粒子物理学、米国の将来戦略は? 委員長を務めた村山斉さんに聞く
素粒子物理学の分野で、これからの10年間に米国がとるべき戦略を提言する「素粒子物理学プロジェクト優先順位決定委員会(Particle Physics Project Prioritization Panel=P5)」が昨年末、9年ぶりに報告書をまとめた。ヒッグス粒子やニュートリノ、暗黒物質などの謎に迫る狙いを、委員長を務めたカリフォルニア大バークリー校の村山斉・マックアダムズ冠教授に聞いた。
――P5という委員会について教えてください。
素粒子物理学の国際的な状況を科学的観点から評価し、優先順位をつけて米国エネルギー省(DOE)と全米科学財団(NSF)に提言する諮問機関です。およそ10年ごとに開かれ、前回は2014年でした。今回は1年ほどかけて国内外の研究者の意見を聞き、タウンホールミーティングを開くなどしてまとめました。
――現在進んでいる計画では、欧州にある世界最大の加速器「LHC」のアップグレードが優先順位のトップですね。
LHCは12年、標準理論が予言した最後の素粒子「ヒッグス粒子」を作ることに成功し、翌年のノーベル物理学賞につながりました。
ヒッグス粒子は万物に質量を与える存在です。ビッグバンの直後、宇宙空間にヒッグス粒子がぎっしりつまったことで、電子や素粒子が自由に飛び回れなくなり、動きにくくなった、つまり質量を持つようになったと考えられています。
水が氷になると、それまで自由に動いていた水分子が動けなくなるように、我々はヒッグス粒子が宇宙を「凍り付かせた」と言っています。
ただ、本当にそうだったかを確かめるには、ヒッグス粒子がほかの素粒子とどれくらい相互作用するのかを調べないといけません。そのためにはもっとヒッグス粒子を作る必要があり、陽子の衝突頻度を増やして10倍のデータを取ろうとしています。
衝突の頻度を上げることを「高輝度化」と呼んでいます。日本は電磁石や検出器の開発を担当していて、運転開始は数年後の見通しです。
高輝度化により、ヒッグス粒子が二つに分かれる現象が見えそうです。二つに分かれた時、ヒッグス粒子同士の間で斥力が働くはずなのですが、それを確かめられると期待しています。
でも、このアップグレードだけでは、観測の精度をそれほど高くできません。
そこで提案されているのが…