廃止の危機から反転攻勢「入りたくなる自治会」に挑戦 藤沢・湘南台
【神奈川】役員のなり手がなく、会費や寄付を求められ、回覧板が回ってくるだけ――。
そんなイメージを一新する改革に、藤沢市のある自治会が取り組んでいる。めざすのは「延命」をこえた「入りたくなる自治会」だという。
小田急線、相鉄線、横浜市営地下鉄ブルーラインの3線が乗り入れる湘南台駅に近い「湘南台二丁目南自治会」。約300世帯でつくるこの自治会は昨年度、解散の危機にあった。
市内の自治会加入率は、ピーク時の1980年度に96.4%だったが、23年度には66%にまで減少している。湘南台二丁目南自治会も例にもれず、高齢化や加入者の減少で、後継者を探せなくなった役員から「廃止・休会やむなし」の声が上がったのだ。
そこに「待った」をかけた役員がいた。会長を引き受ける田代美加さん(58)だ。
田代さんは、別の場所に住むが、自治会内で保育園を経営。現役世代が通勤などでいない昼間などにもし災害が起きれば、「子どもたちを助けていただくのは地域しかない」と痛感していた。
自治会がなくなれば地域の防災倉庫なども維持できなくなる。「日々のくらしの安全・安心のために、住民の支え合いの基盤となる自治会は必要」と解散に反対した。
田代さんは昨年4月、22の組長が集まる自治会の会議で「立て直して自治会を存続したい」と訴えた。
一か八かだったが、役員経験のない4人を含む5人が、田代さんの訴えに心打たれ、協力を申し出た。
2年前に引っ越してきた公務員の田中朋春さん(43)は「例えば災害で体育館で避難することになったとき、周りに顔見知りがいるのといないのとでは全く違う」と動機を話す。
6人はプロジェクトチームを作り、会員アンケートなどから課題を抽出。先進事例なども調べながら、負担と感じられている業務を一つ一つ見直していくことにした。
試しに、みんながやりたがらない組長の業務を分析してみた。すると8割が、自治会費の徴収と市の広報の配布だった。
共働き世帯の増加で不在も多く、一度で済まない集金にかける労力や保管の負担は馬鹿にならない。
だったら、経費がかかっても会費をコンビニ納付にし、広報配布も社会福祉法人などに委託すればいいのでは。
その上で1組あたりの世帯数を増やせば、輪番で回ってくる組長の頻度も減らせる。
さらに、2倍の町内会費を払えば役職をパスできる「特別会員」を作れば、参加のハードルが下がるのではないか。
本部役員の業務も整理して常任は会長ら4人にし、繁忙時などは臨時に手伝う「サポート役員」で補ってはどうか……。
魅力アップ策にも腐心した。「『仕方がなく入る』から『入るとオトク』」(田中さん)に、反転攻勢をかけるためだ。
自治会としては全国でも珍しい、大手警備会社との防犯協定を締結し、災害時の安否確認サービスを提供する。さらに希望者はペーパーレスで情報が得られるよう、自治会のホームページやLINEアカウントも開設することにした。将来的には、賛同する地元商店とコラボした「自治会員割引」なども思い描く。
1年を費やした改革案を掲げて臨んだ今年2月の臨時総会で、無事、規約の変更が承認され、自治会の存続が決まった。
おそらく初めて正面から入会の意思を問うたため、52世帯が退会した。ただ、改革前のアンケートで自治会の廃止を支持した世帯が4割で、存続派の2倍だったことを考えると、規約の承認は挑戦へのエールだと田代さんは受け止めた。
「退会する人を止めるのではなく、『入りたくなる自治会』を作って、活動を充実させていきたい」。
副会長を引き受けた田中さんも、改革した自治会の存在が、やがて地域の価値を高め、選ばれる街になる可能性を秘めていると考えている。
まずは、会員の関心が最も高い、災害備蓄品の充実や避難所設営訓練の実施などに力を入れていくという。