意地悪な「排除ベンチ」撤去 取り組んだ市議が考える公共空間の意味

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聞き手・岡田玄
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 寝転んだり、長く座ったりできないように突起やバーが付けられたり、座面が湾曲したりしているベンチがある。「排除ベンチ」とも呼ばれ、いまやどこにでもある。だが、神奈川県平塚市で、排除ベンチが撤去された。取り組んだ江口友子(ともこ)市議は「公共空間の意味」を考えるべきだと言う。

     ◇

 ――いわゆる「排除ベンチ」の撤去に成功したそうですね。どういう経緯ですか。

 「昨年、市民から『木製ベンチがボロボロで座れないから、何とかして』と言われ、見に行きました」

鉄製の突起に「意地悪な感じ」

 「JR平塚駅西口そばに30年近く前に設置されたベンチで、見慣れた風景の中にありましたが、私もその存在に気づいていませんでした。確かに朽ちていて、座面に鉄製の突起が付けられていました。よくあるものですが、『意地悪な感じ』と思いました」

 ――やはり、ホームレス対策ですか。

 「市に記録もなく、はっきりした経緯はわかりませんでした。ただ、突起は20年以上前に野宿者対策として後付けされたものだと説明を受けました。そのころ市内各地のベンチに付けられたそうです」

 「実は平塚市は長年、横浜市川崎市に次いで神奈川県内で3番目に野宿者が多い自治体でした」

 ――人口25万なのに、政令指定市の横浜、川崎の次に多かったのですか。

 「理由はあると思っています。以前、野宿者の支援活動をしていたのですが、当事者に聞くと、野宿に至った理由は大別して三つでした。ギャンブル、お酒、女性問題です。平塚には競輪場や歓楽街があり、この要素がそろっていました」

寄せられた野宿者対策の要望

 ――市議として、野宿者対策の要望も受けましたか。

 「20年以上、市議をしていますが、確かに以前は野宿者を何とかしてほしいという市民の要望は強かったです。自宅や営業する店の前に居座られると困るという理由も理解できます」

 ――しかし、今は、それほど目にしませんね。

 「市や市民団体が、野宿者を医療や生活保護につなげるなど一生懸命やりました。こうした取り組みもあって野宿者数は大きく減りました。貧困の実態が見えづらくなったという側面はありますが、ともかく野宿者は減りました」

 ――そして、突起の付いたベンチが残った。

 「ベンチの所管は市道路管理課です。直してほしいと言いに行ったのですが、その時に『突起物も外してほしい』と伝えるのに、実はちょっと勇気が要りました」

 「社会の少数派に立って何かを言う時、いつも排除されてきたので、『これを言って、また断られたら嫌だな』と思ったんです。我ながら、へたれだなあと思いますが……」

役所は前例主義ではない?

 「だから、わざわざ資料をま…

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この記事を書いた人
岡田玄
東京社会部
専門・関心分野
中南米、沖縄、移民、民主主義、脱植民地主義
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    杉田菜穂
    (俳人・大阪公立大学教授=社会政策)
    2024年5月26日14時8分 投稿
    【視点】

    私の所属している大阪公立大学(杉本キャンパス)のなかを歩いていると、積極的に会話をするなどして関わりあうほどではないけれど、みんなで、ひとりでいることを楽しんでいるような景色を見かけることがよくある。そんな景色に触れると、ばらばらに過ごして

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