「風前のともしび」の伝統工芸品 田中麗奈さんが故郷で感じた危機
俳優の田中麗奈さん(44)が、普段から愛用しているお盆と3色の箸がある。
編み込んだ国産の真竹に漆が塗り重ねられており、赤や青といった鮮やかな色合いが映える。
故郷である福岡県久留米市の伝統工芸品「籃胎(らんたい)漆器」だ。数年前に地元の友人から贈られ、食卓で使っているという。
「すごく軽くて扱いやすい。手触りもよく、日常的に使いやすいんです」
籃胎は「竹かごを胎(はら)む」の意味とされる。竹で編んだ素地に漆を塗り重ね、磨きあげて仕上げる。お盆や皿、箸など用途は広く、深みのある光沢が特徴だ。
久留米藩の御用塗り師の流れをくむ人たちが明治期に誕生させ、福岡県の筑後地域では「一家に1枚は籃胎漆器のお盆がある」と言われていたほど。田中さんにとっても、籃胎漆器は「小さいときから日常の中で当たり前にある存在でした」という。
田中さんは高校生のころに出演したサントリーの清涼飲料水「なっちゃん」のCMで、全国的に知られる存在になった。地元の伝統工芸品の良さに気づいたのは、拠点を東京に移してからだったという。
「東京で暮らすようになって、改めて故郷にしかないものを俯瞰(ふかん)で認識するようになりました。そこから、籃胎漆器を自分も生活に採り入れてみよう、と。自分でも買って使っていくことでどんどん愛着がわいていくし、やっぱり子どものときに身近にあったものを使うことで、安心感があります」
経営者の苦悩「10年後と予想した苦境に3年で……」
しかし、地元で愛されてきたそんな工芸品がいま、苦境に立たされている。
創業78年、久留米市の製造…
- 【視点】
20年以上前だが、福岡県久留米市ゆかりの伝統工芸品「籃胎漆器」や「久留米絣(がすり)」の製造現場を取材したことがある。そこにしかない色合いや質感は、長い年月をかけて技術を高めた職人の手でなければ出せないものだと知った。 当時から先行きへの不
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