埋もれさせては大変だ…「隠れ巨匠」の人形展、出会いの連鎖で実現

今井邦彦
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 和歌を題材にした人形を通し、「万葉集」の世界を紹介する平城宮いざない館(奈良市二条大路南3丁目)の企画展「万葉挽歌(レクイエム)―人形からみる古(いにしえ)の奈良―」。人形を制作した永瀬卓さん(75)と、同展を実現させた関係者のトークイベントが、同館で開かれた。

 イベントは12日にあり、永瀬さんと、彼の人形作品をSNSで紹介し、注目されるきっかけを作った日本画家の中田文花(もんか)さん、同展を企画した岩戸晶子・奈良大学教授の3人が登壇した。

 埼玉県在住の永瀬さんは、中学校の美術教師を定年退職後、趣味で万葉集を題材にした人形制作を開始。2020年3月に東大寺二月堂のお水取りを見るために奈良を訪れた際、定宿にしていたホテルのオーナーに中田さんを紹介されたという。

 中田さんは毎年、お水取りを見学しているが、この年は初めてそのホテルに宿泊していた。「人形の写真を見せられ、実は有名な作家さんの作品じゃないかとネットで検索したが、まったくヒットしない。この作品を埋もれさせては大変だと思った」と振り返る。

 出会いから2年後、中田さんはツイッター(現X)で永瀬さんを「隠れ巨匠」と紹介し、人形の画像をアップした。投稿には10万件の「いいね」が付き、2万人がリツイート。ネットニュースの記事にもなった。

 当時、奈良文化財研究所の展示企画室長だった岩戸さんは、中田さんの投稿で初めて永瀬さんの人形を見て、その美しさに「ぞわっとした」という。

 何とか奈良で展示できないかと検討を始めたが、美術作品の個展は奈文研の「守備範囲」からは外れる。そのため、人形を通して万葉集の世界に触れる展示を企画し、実現にこぎつけた。

 「ここまでの流れが一つでも欠けたら、展示は実現しなかった。(お水取りが行われる)二月堂の観音さまのおかげとしか思えません」と永瀬さんは話していた。

 「万葉挽歌」展は9月1日まで。観覧無料。

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この記事を書いた人
今井邦彦
専門記者|歴史・文化財
専門・関心分野
歴史、考古学、文化財、サブカルチャー