袴田巌さんの再審、午後2時判決 一度は死刑確定、再審のポイントは

金子和史
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 1966年に静岡県のみそ製造会社の専務一家4人を殺害したとして、強盗殺人罪などで死刑が確定した袴田巌さん(88)の裁判をやり直す再審の判決が26日午後2時、静岡地裁で言い渡される。過去の事例から無罪となる公算が大きいが、検察は袴田さんが犯人だとして改めて死刑を求刑している。

 事件で逮捕されたみそ製造会社従業員で元プロボクサーの袴田さんは捜査段階で「自白」したが、同年11月に始まった裁判で無罪を主張。静岡地裁は68年に死刑判決を言い渡し、80年に確定した。2008年に袴田さん側が申し立てた2回目の再審請求東京高裁が認め、23年10月に再審公判が始まった。

 再審開始の決め手になったのは、犯行時の着衣とされ、確定審の有罪の根拠の柱になった「5点の衣類」だ。袴田さん逮捕の約1年後にみそ工場のみそタンクから見つかり、発見後のカラー写真では、血痕に鮮やかな赤みが残っていた。弁護側は、衣類のみそ漬け実験や専門家の鑑定結果を踏まえ「1年もみそに漬かれば赤みは消える。血痕に赤みが残る衣類は、発見直前に投入されたと考えられ、勾留中の袴田さんのものではない」と主張。高裁はこれを認め、衣類は捜査機関による「捏造(ねつぞう)の可能性が極めて高い」と述べた。

 再審公判の最大の争点は「衣類の血痕の色の変化」だ。検察側は、新たに法医学者らの共同鑑定書を提出し「赤みが残る可能性も否定できない」と主張。捏造については「実行不可能で非現実的だ」と述べた。

 さらに検察側は、衣類以外にも袴田さんの体にあった傷痕など事件当時に収集した様々な証拠を提出し、犯人は袴田さん以外には考えられない、と主張。弁護側は、いずれも有罪の根拠にならないと全面的に反論した。

 刑事訴訟法では、再審開始には「無罪を言い渡すべき明らかな証拠」が必要と定めており、過去の事例でも再審開始の決定が、事実上の「無罪宣告」になっている。静岡地裁の判断が注目される。

 無罪となった場合は、検察が控訴するかが焦点だ。近年、再審公判での無罪判決に対し、検察が控訴して争った例はないとみられる。1980年代に確定死刑囚が再審で相次いで無罪になった四つの事件でも、検察は控訴しなかった。だが、検察内部では、再審請求審で裁判所が言及した「証拠捏造」への反発が根強く、地裁がこの点にどう言及するかで検察の対応が変わるとの見方もある。

 袴田さんは、2014年に静岡地裁が一度再審開始決定を出した際に釈放されたが、長年の拘禁生活で精神を病み意思疎通が難しい。再審公判の出廷は免除され、姉の秀子さん(91)が代わりに無実を訴えた。

事件の経緯

1966年6月 事件発生

1966年8月 静岡県警が袴田巌さんを強盗殺人容疑などで逮捕

1966年11月 静岡地裁の初公判で袴田さんが無罪主張

1967年8月 工場のみそタンク内から「5点の衣類」が見つかる

1968年9月 静岡地裁が死刑判決

1976年5月 東京高裁が控訴棄却

1980年11月 最高裁が上告棄却、翌月に死刑判決確定

1981年4月 第1次再審請求(地裁、高裁、最高裁ともに退ける)

2008年4月 第2次再審請求

2014年3月 静岡地裁が再審開始決定、袴田さんを釈放

2018年6月 東京高裁が再審開始決定を取り消す決定

2020年12月 最高裁が高裁決定を取り消し、審理を差し戻す決定

2023年3月 東京高裁が再審開始を決定。東京高検が特別抗告を断念し、再審開始が確定

2023年10月 静岡地裁で再審の初公判

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この記事を書いた人
金子和史
東京社会部|裁判担当
専門・関心分野
事件、司法
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