閑静な住宅街で、4階建てのアパートが無残な姿をさらしていた。
爆発で吹き飛ばされた屋根。100メートルほど離れた建物の窓ガラスも爆風で割れたまま。ロシア軍が、東部の前線から1千キロ以上離れたこの場所にミサイルを撃ち込んだのは、9月4日午前5時半すぎだった。
ウクライナ西部リビウ。会社経営のヤロスラフ・バジレビッチさん(48)は、このアパートの最上階に妻と娘3人の家族5人で暮らしていた。
ウクライナへの侵攻を続けるロシアによる民間施設などへ無差別的な攻撃で、1万1500人以上の市民が犠牲になり、その攻撃頻度が増しています。男性が記者に語ったのは、妻と3人の娘との、かけがえのない思い出でした。
9月下旬、ヤロスラフさんは記者に、仲良しだった家族一人ひとりについて話してくれた。
長女ヤリナさんは21歳。エネルギッシュで、愛情を持ち、とてもいい笑顔を見せる。そろそろ一人暮らしをしたいと言っていた。
次女ダリアさんは18歳。小さい頃から芯の強い子だった。大学でウクライナ文化を学びながら、舞台俳優になるのを夢見ていた。
三女エミリアさんは6歳。年の離れた2人の姉にかわいがられて育った。やりたいこと、やりたくないことをはっきり言う末っ子。歌をうたうのが大好きで、習い始めたピアノもうまく弾けるようになった。
妻のエウヘニアさんは43歳で、家族の中心。献身的で責任感が強かった。会社でデジタルマーケティングを担当するほか、ヨガのインストラクターもする活発な女性だった。「戦争が終わったら、家族で車に乗ってフランスに旅行に行こう」と約束していた。
子どもたちには、正直で責任感ある人間になって欲しいと、夫婦でいつも願っていた。妻の性格を受け継いだのか、その通りに育ってくれた。
ただ家族に幸せでいて欲しかった。そして、家族は自分にとっての「宝物」だった。
あの日、未明から空襲警報がなり始めた。近くに地下シェルターはない。妻が子どもたちを起こし、自宅で一番安全な、壁に囲まれた廊下に避難した。子どもたちはそこで寄り添って横になった。
「あなたも来て」妻との電話の最中に襲った悲劇
廊下は狭いため、ヤロスラフさんだけ、キッチンで事態が収まるのを待った。2時間ほどがたち、近くで爆発音が聞こえた。妻は子どもたちと、より安全な場所と考えた1階に向かって階段を下りた。
「あなたも来て」
妻が携帯電話で自分にそう呼…
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