除染土置き場の地権者、国の閣僚会議方針に「押しつけは論外」
除染土はどこへ−−。福島県双葉、大熊両町にまたがる中間貯蔵施設の除染土を2045年3月までに県外で最終処分するため、林芳正官房長官をトップとする閣僚会議が20日開かれ、工程表をつくる方針が示された。この10年、県外での理解醸成はほぼ進まなかった。事態が動くきっかけとなるのか。
「前に進んでいない」
大熊町の自身の土地を中間貯蔵施設に提供する、「30年中間貯蔵施設地権者会」の門馬好春会長(67)は国の新方針に厳しい目を向けた。
閣僚会議は、やるべき項目を並べた基本方針を来春までに、時期を含めた工程表を来夏までにつくると決めた。しかし、最終処分地の選定につながる具体的な内容は示されなかったと、門馬さんは感じた。会は国に「一番難しいことこそ最初に取り組んでほしい」と求めてきた。
一方、林芳正官房長官が除染土の再生利用について、「国際原子力機関(IAEA)からの評価・助言により安全性が確認されている」と推進に意欲を見せたことには、「国会で安全性について科学的議論をするべきだ。国民の納得がないまま進めれば分断を生む。大熊や双葉が、いやなものを押しつける加害者扱いをされるのは論外だ」と危機感を示した。
生まれ育った大熊町の実家は福島第一原発から200メートルほど。それを11月に解体した。「両親が苦労して建てた家。事故さえなければ」と改めて思った。「2045年まであっという間。議論を避けている時間はない」
環境省が目指す最終処分への理解は、県外でほとんど進んでいない。東京都の新宿御苑や埼玉県所沢市では、除染土再生利用の実証事業が反発を招き、事実上凍結された。
新宿御苑のそばに住む文筆家の平井玄さん(72)は、「新宿御苑への放射能汚染土持ち込みに反対する会」の世話人だ。地元では22年末、話が突然ふってわき、説明会も限られた住民しか入れなかったという。
「そもそもの安全性や浸水被害が起きたらどうするのか。問題は多くあるが、住民に説明する気が環境省から感じられなかった」
結局、事態は行き詰まり、園内のインフォメーションセンターに除染土を使った鉢植えが展示されているだけだ。所沢市でも動きは止まった。
平井さんも、国が掲げる再生利用を警戒している。「正面からごり押しできなくなったから、『資源』として建設資材などに紛れさせようとしているのではないか」
◇
中間貯蔵施設の北西にある双葉町営の駅西住宅。管理組合長の国分信一さん(74)は「ロードマップが今更示されても、現実的には厳しい」と冷めた見方だ。
昨年9月までいわき市で避難生活を続け、除染土がどうなるのか見守ってきた。環境省によると、除染や中間貯蔵施設にかかった費用は、今年度末までに計5兆円に達する見通しだ。
国分さんは「県外搬出するには相当な費用もかかる。低線量の除染土は町に残して費用の半分なりを町に払ってもらい、ソフト面の整備などに当てた方がいいんじゃないかと、仲間内では話している」という。
除染土をめぐる主な動き(肩書は当時)
2011年3月 東京電力福島第一原発事故発生
8月 菅直人首相が佐藤雄平知事に中間貯蔵施設(中貯)の受け入れを打診
12年7月 本格除染が始まる
14年9月 佐藤知事が中貯受け入れを政府に伝える
11月 中貯の除染土を搬入開始から30年以内に福島県外へ搬出することを明記した法改正が成立
15年3月 除染土の搬入が始まる
19年5月 飯舘村長泥地区で除染土を再利用した実証事業開始
21年5月 環境省が理解醸成の対話集会を全国で始める
22年3月 中貯への除染土搬入がおおむね完了
12月 環境省が新宿御苑(東京)と埼玉県所沢市で除染土再利用の実証事業を行う方針を示す。その後、住民の反発で計画は事実上凍結
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