ゴミ捨て場であさったコンビーフ 戦時下、子どもたちの正月に暗い影

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渡辺洋介
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 零下1度。厳しい冷え込みが続いたここ数日に比べれば、少し寒さが緩んだ元日の朝だった。

 二瓶治代(はるよ)さんは8歳。お正月は一番の楽しみだ。ごちそうを食べて、羽根つきをして――。目が覚めると、東京・亀戸の自宅の2階から階段を駆け下りた。

 でも、すぐにがっかりした。

 茶の間のちゃぶ台にあったのは、数の子、黒豆、昆布巻きがちょこんと載った小皿と、お雑煮ぐらい。大好物の栗きんとんも、鯛(たい)のお頭もない。三段重の中身はすかすかだった。

 近所の軒先に日の丸は並んでいても、門松はない。たこ揚げや羽根つきをする子どもたちの姿もなかった。一軒隣に住んでいた上級生のゆきちゃんも、こうちゃんもいない。3~6年生は前年夏から親元を離れ、山形県で年を越していた。

 「こんなお正月、つまんない」

 寝っころがり、ふくれっ面をしていると、母のいねさんから諭された。

正月にあらず「十三月」

 「戦争中なんだから仕方がないでしょう」

 1945年、戦時体制のまっただ中だった。

 学童疎開が強化され、工場は休み無く稼働していた。元日付の朝日新聞東京本社版は「正月に非(あら)ず『十三月』 新春へ貫く徹夜作業」と見出しにうたった。2日後に配達された同紙は「年末の帰省客、正月の初詣客は激減」と伝えている。

 空襲も始まり、東京には大みそかから元日にかけて米軍のB29爆撃機が飛来。東京大空襲・戦災誌によると、神田や浅草などで数百世帯以上が焼け、6人が死亡、100人がけがをした。

 街場では年始の米軍の爆撃を…

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この記事を書いた人
渡辺洋介
東京社会部
専門・関心分野
戦争、平和、核問題、東日本大震災
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    小松理虔
    (地域活動家)
    2024年12月30日17時0分 投稿
    【視点】

    団塊ジュニア世代の自分が子どものころは、ほとんどの家に戦争を経験したじいちゃんばあちゃんがいて、親戚の集まる正月になると戦時中の話を聞く機会もありましたが、最近のじいちゃんばあちゃんの多くは戦後生まれ。なかなか戦争の話を聞くこともできなくな

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