海を望む温泉地 大津波への備えは景観遮る防潮堤か、それ以外の道か

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田中美保 南島信也
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現場へ! 逃げる防災@伊豆(1)

 南海トラフ地震臨時情報(巨大地震注意)が初めて出された2024年8月8日夕。静岡県伊豆市土肥(とい)の旅館の5代目、野毛貴登(たかと)(55)は、駿河湾に面した海水浴場にある津波避難施設にいた。

 地上4階建て、高さ18.8メートルの施設は、普段は特産品の直売所やレストランなど商業施設として営業し、いざ津波となれば避難タワーにもなる全国初の複合施設だ。市民の公募で付いた「テラッセ オレンジ トイ」の愛称は、海岸から見える夕日をイメージした。松林の合間に立つシルバーを基調とした建物は、避難施設とは思えないつくりだ。

 臨時情報が出されたことで、野毛が理事長を務める旅館協同組合は対応に追われた。加盟する旅館には、予約客から「土肥に行っても大丈夫か」という問い合わせが相次ぎ、どう応じたら良いかという相談が組合に寄せられていたからだ。

 野毛は、組合として統一した対応で観光客に安心してもらおうと努めた。

 土肥では、高層の旅館は市と協定を結んで津波避難ビルとして指定されていること、テラッセが1カ月ほど前に完成し、地域で避難態勢を整えていることも予約客に説明するよう伝えた。「迷っていたお客さんたちが説明を聞いて納得された」という報告を聞き、野毛はホッとした。

 テラッセ内の店舗は旅館組合が運営を委託されており、責任者の野毛はその日午後10時頃まで施設内で待機した。倉庫には、避難者1200人が一晩越せる備蓄も備える。野毛はマスターキーを握り、慌ただしい半日を振り返った。「まさかここで待機することになるとは……」

「俺たちの前につくるな」

 伊豆半島の西側に位置する土…

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