直木賞候補作の「モデルは私?」 作家と面識なし、奇妙な一致の謎

有料記事

上保晃平 鈴木優香
[PR]

 じゃがいもの配送を終え、ひたすら真っすぐ伸びる一本道を車で走る。

 左右に広がる雪原はすべて畑だ。左手の山々の稜線(りょうせん)が建物で隠れ、「Ezura Farm(えづらファーム)」と書かれた看板が見えてきた。

 北海道遠軽町の白滝地区で農場を営む江面(えづら)陽子さん(44)は確信した。

 「やっぱりすべてがそっくりだわ」

 第172回直木賞候補作に選ばれた伊与原新さんの短編集「藍を継ぐ海」(新潮社)。収録されている「星隕(お)つ駅逓(えきてい)」は白滝が舞台で、その描写は自分自身の生活と驚くほど一致していた。

 隕石(いんせき)が落ちたことをきっかけに、妊婦の涼子が、消えていく地名を後世に残そうとする――。

 物語では、雪原のなかの一本道を進むと「ほろそうファーム」の看板が現れる。じゃがいもを作る農場には、冬場も麦わらロールが置かれていて、小さな宿泊施設が併設されている。

 なにより、涼子が産む予定の女の子についてこんな記述があった。

 「畑と山ばかりの閑散としたこの土地が、太陽と草花の香りに包まれる一番いい時季に生まれてくるのだから、その空気を感じさせる名前を付けたい」

 江面さんにも、野山の植物が一斉に芽吹く春に生まれた小学生の娘がいる。「野花のようにかわいらしく、どんな環境でも根を張り、花を咲かせてほしい」との願いを込め、名付けた。

 とても偶然とは思えない。だが、作者の伊与原さんと会ったことはない。「モデルは私の農場なのだろうか」

     ◇…

この記事は有料記事です。残り1169文字有料会員になると続きをお読みいただけます。

【初トクキャンペーン】有料記事読み放題!スタンダードコースが今なら2カ月間月額100円!詳しくはこちら

この記事を書いた人
上保晃平
北海道報道センター|事件・司法担当
専門・関心分野
人権、社会保障、障老病異