(社説)解雇規制見直し 粗雑な提案 認められぬ

社説

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 自民党総裁選解雇規制の見直しが論点になっている。よりよい仕事に転職しやすい社会にしていくことは望ましいが、働き手が自発的に動くのが前提だ。ルールのあり方は雇用の安定にかかわり、慎重な検討が求められる。粗雑な提案は認められない。

 企業の業績悪化などによる整理解雇では、(1)人員削減の必要性(2)解雇回避の努力(3)人選の合理性(4)手続きの相当性の4要件を考慮する必要がある。立場の強い使用者による解雇権の乱用を防ぐ手立てとして、判例や実務で定着している重要なルールだ。

 小泉進次郎元環境相は、総裁選立候補にあたり、「4要件が満たされないと人員整理が認められにくい状況を変えていく」と訴えた。大企業について、解雇回避努力の一つの配置転換に疑問を示し、学び直しや再就職支援を通じて他分野に転職できる制度を構想したいと述べている。

 また、河野太郎デジタル相は、解雇の金銭補償のルール化を提案した。

 他の候補からは「本当に労働者の権利が守られるのか」などの慎重な意見が相次ぐ。立憲民主党代表選の4候補者も一斉に批判している。

 小泉氏は批判を受けて、解雇規制の「緩和ではない」とも言いだしたが、具体例や想定する法改正の中身について十分な説明はない。にもかかわらず、「決着」や「聖域なき規制改革の断行」を掲げ、来年にも法案を出すという。労使の議論の蓄積もないところで、あまりにも乱暴だ。

 一方、解雇の金銭解決制度は、政府内で長年、議論されてきた。だが、労働組合側からは不当解雇を正当化しかねないという反対があり、中小企業団体からは解決金の水準設定に慎重な意見がある。

 そもそも、日本の解雇規制は国際的にも特に厳しい方ではない。配置転換の努力が前提になるのも、欧米とは異なり、平時から会社の都合で職務内容や勤務地を変えさせている実態があるからだ。

 小泉氏は、自らの提案は正規と非正規の格差是正に資すると主張する。だが、正規が非正規に寄れば雇用が不安定化し、経済成長も損なう。

 政府がなすべきは、就職氷河期世代を含む非正規の学び直しの機会を増やしつつ、正規化を促すことのはずだ。社会保険の適用拡大や、退職所得課税の見直しなど働き方に中立的な制度への移行にも目を配る必要がある。

 首相をめざそうという政治家が、働き手の人生を左右する解雇ルールを議論するのであれば、精緻(せいち)な提案と丁寧な姿勢で臨むことが不可欠だ。

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