人生の旅 永遠の旅 そいぎね

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平尾茂の湯ろ酒く佐賀

 このコラムの筆者、平尾茂さんは7日に急性硬膜下血腫で亡くなりました。今回は、これまでに掲載した中から抜粋して紹介します。

 よく晴れた4月の青空のもと、徐福サイクルロードで自転車のペダルをケッタ。老夫婦や小さい子供連れの母親など、のんびり散歩する姿を見る。途中の花畑には「ヘイワ」という文字が花で作られ、見る人の顔も「ヘーイイワ」ねとほころぶ。青々とした佐賀平野の麦畑は有明海からの甘い風がそよぐ。空には鳥が歌い、春を謳歌(おうか)する。コロナがうそのよう。「すべて世は事もなし」というブラウニングの詩を思い出す。              (2020年4月27日)

       

 有田で買ったお気に入りの平杯で今夜も一杯やる。トクトクと魔法の液体を注ぐとふわーっと香りが立つ。薄い縁に唇を当てクイッと杯を傾ける。「ああ、極楽」。お酒と私は一体となる。ぬるかんのお酒は人の心と体を開く。お酒も好きだが酒器もシュキだ。(19年5月16日)

 お酒は弱くなったが、あと10年は飲みたい。一日一合、いや七酌を目標に、ゆっくりとちびちびぬる燗(かん)を舐(な)める。あ~今日もお酒が卯(う)まい。いい感じ。来年も湯ろ酒く。(22年12月24日)

        

 「散る桜 残る桜も 散る桜」。良寛さんの辞世の句だ。今を日々大切に生きて輝くことこそ大事ではと私は思う。

 桜は散ったが、山は萌(も)えるような若葉の季節だ。新しい暮らしに少し慣れたら山に行って見上げてみよう。空、雲、森、鳥の鳴き声、下界とは空気感が違うはずだ。温泉につかれば心も癒やされる。悲しみや隔たりを経験した人ほど人生の深い味わいを知っているだろう。(21年4月17日)

        

 先日、佐賀市の熊の川温泉ちどりの湯でのおじさんたちの会話。「久しかぶい会うたのまい、元気しとったこー」「麦刈(むぎかい)の終わったけん、骨休めに来た」「車で20分、近くの温泉が一番良かたい」「山も川もあって気分転換になっ」「そいぎね。元気しとかんばいかんよ」

 ありふれた日常の会話に温泉の温かさが伝わる。人生という旅の途中。                                      (23年6月24日)

◆連載はこれで終わります。

ひらお・しげる 1951年佐賀市生まれ。佐賀市役所勤務後、同市社会福祉協議会富士支所長。「お酒と温泉文化研究家・さが雑学博士」として活躍。「そいばってん佐賀」など著書多数。「平尾茂の湯ろ酒く佐賀」は2019年4月から連載を続けていた。

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