傷めなかった民主主義、抑えた感染 オードリー・タン氏
新型コロナウイルスを流行初期のうちに抑え込んだ台湾で、その成功を支えたのは行政のデジタル化と官民の協調だった。そう語るのは、感染対策の中心人物の一人で、抜群の頭脳を生かして社会改革に取り組んできた唐鳳(オードリー・タン)さんだ。日本のコロナ対策だけでなく、国のあり方についても考えさせられる。
――新型コロナウイルスの感染者が中国で見つかって1年が過ぎました。台湾が感染拡大を抑え込めた理由は何でしょうか。
「社会と行政と経済界との協力、と私たちは言っています。全社会的なアプローチと呼ぶ人もいます。例えばマスクです。30歳以上の人々は2003年に流行した重症急性呼吸器症候群(SARS)を覚えていて、マスクは手洗いとともに感染防止に効果的だと知っていました。行政は健康保険カードを使ったマスク配給制度を作りました。コンビニがマスク配給場所として名乗りを上げてくれました。誰かが主導したわけではなかったのです」
――3者の中では行政に大きな権限や影響力があります。人々は受け身になりがちでは?
「私はそう思いません。マスクが不足していたころ、行政は『風通しの良い地下鉄車内でマスクは不要』と説明しました。でも人々はマスクを着け続けたので、私たちは考えを改め、マスク増産に尽力しました。行政が権威的な指示をしていたら、こうならなかったでしょう」
――マスク不足の時期に民間のアイデアを採用し、ネット上にマスク供給地図を作りましたね。
「台湾には『勝てないなら一緒にやろう』という考えがあります。大気や水質の観測、災害時の救助活動でも共通しており、官民の信頼関係が基礎にあります」
――中国もコロナ抑止に成功したとされていますが。
「中国の手法は台湾と全く異なります。台湾は感染症対策部門の職員が、肺炎の流行をネットで発信していた武漢の李文亮医師(後に死去)の情報に気付き、即座に防疫を強化しました。憲法に規定がある緊急事態を宣言せず、都市封鎖もしていません。民主主義制度を傷めず、穏やかな方法で中国と同じような結果を得ました」
「一方で、李医師の情報は武漢の人々に届きませんでした。もし中国で言論の自由が確保されていたら結果は違っていたはずです。感染拡大を受け、中国は武漢の封鎖という手荒な手段をとらざるを得なくなったのです」
――携帯電話の位置情報や街の防犯カメラで対象者の行動履歴を調べる台湾の防疫手法自体は、中国と似ていませんか。
オードリー・タン 1981年生まれ。小中学校で不登校を経験。高校に進学せず、IT業界を経て2016年から民間登用の閣僚。トランスジェンダーを公表している。インタビュー後半では、デジタル技術が人々を結びつけた結果生まれた憎悪の増幅にどう向き合うか、についても語ってくれました。
「強調したいのは、それらの…