難解なだけの文学じゃない 夫婦ではまった「ロシア沼」の魅力と強さ
ドストエフスキーやチェーホフなど、数々の文豪を生み出し、日本の作家にも多くの影響を与えてきたロシア文学。東京外国語大教授の沼野恭子さん(64)は、青春時代からその「沼」にどっぷりと浸(つ)かり、同業のパートナーと二人三脚で最前線の作家たちを紹介してきた。何が突き動かすのか。
ぬまの・きょうこ 1957年、東京都生まれ。大学卒業後、NHKでロシア国内向けのロシア語放送番組を担当。ハーバード大講師を経て、92年東京大大学院博士課程修了。08年から東京外大教授。NHKロシア語講座の講師も務めた。著書に「ロシア文学の食卓」「ロシア万華鏡――社会・文学・芸術」、訳書にツルゲーネフ「初恋」、アクーニン「リヴァイアサン号殺人事件」など。夫の沼野充義さんは東京大教授を経て20年から名古屋外国語大副学長。
きっかけは、高校生の時に読んだトルストイの「アンナ・カレーニナ」だった。登場人物の一人に深く共感したのだ。といっても、不倫の果てに身を滅ぼすヒロインにではない。農民のために農地の改革に取り組む不器用な理想家、リョービンに引かれた。
「何しろまじめな性格で、くよくよと人生の意味について悩んでいる。それが、高校時代の私とそっくりだったんですね」
実家にあった世界文学全集で各国の文学に触れたが、しっくりきたのはロシアの小説だった。同じく文学好きだった高校の恩師にも背中を押され、東京外国語大でロシア文学を学んだ。
夏休みに初めてロシア(当時はソ連)を訪れた。大学の先生からは「外国人との交流は、ソ連人にとってリスク。気をつけて」と注意されたが、旧都レニングラード(現サンクトペテルブルク)に着くと、高齢の女性に「どこから来たの」と声をかけられた。話が盛り上がり、「うちにおいでよ」。複数の家族が共に暮らすコムナルカ(ソ連式共同アパート)に招かれた。
覆ったロシア人の印象
新聞紙がトイレットペーパー…
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