いま見たい「壁を超える愛」作品 世界の話題作からあのドラマまで
様々な「壁」を超えて生きる人たちを描いた作品は世界に数多くあります。人々を苦しめる国家体制、格差、偏見といった不条理を訴えかけると同時に、あきらめずに闘う人間の強さや優しさを教えてくれます。世界各地の話題作から皆さんご存じのあのドラマまで、11の作品を紹介します。
アカデミー賞ノミネート、パレスチナを生きる若者を描いたドラマ
オマールの壁(2013年)
イスラエル占領下のパレスチナを生きる若者たちの現実を描いたドラマ。第86回アカデミー賞外国語映画賞にノミネート。スタッフは全員パレスチナ人で、撮影もすべてパレスチナで行われた。
思慮深く真面目なパン職人のオマールは、分離壁をよじのぼっては、壁の向こう側に住む恋人ナディアのもとに通っていた。オマールはこんな毎日を変えようと仲間と共に立ち上がったが、イスラエル兵殺害容疑で捕らえられてしまう。拷問を受け、一生捕らわれの身になるか仲間を裏切ってスパイになるかの選択を迫られるが……。
本国では上映禁止。若い女性2人の恋愛模様
ラフィキ:ふたりの夢(2018年)
同性愛が違法とされているケニアで、2人の若い女性が家同士の対立を乗り越え愛を育む恋愛模様と、過酷な現実を描いた。カンヌ国際映画祭にも出品されたが、ケニアでは上映禁止になった。
看護師になるのが目標のケナ。両親は離婚し母と暮らしていたが、国会議員に立候補した父のことは応援している。そんな時、父の対立候補の娘で自由奔放なジキと出会う。互いに強くひかれた2人は、「私たちは本物になろう」と誓い合う。だが、友情が恋心へと変わり始めた時、2人は厳しい選択を突きつけられる――。
目の見えない少年と幼なじみ、転校生の揺れ動く気持ち
彼の見つめる先に(2014年)
ブラジル・サンパウロを舞台に、若者たちの揺れ動く感情を描いた。ベルリン国際映画祭でテディ賞などを受賞した。
目が見えない高校生レオは、少し過保護な両親や優しい祖母、幼なじみの女の子ジョヴァンナらに囲まれて平穏な生活を送っていた。ある日、クラスにガブリエルという少年が転校してくる。3人は自然に仲良くなり、レオはガブリエルと一緒に映画館に行ったり自転車に乗ったりと新しい世界を知るが、やがてそれぞれの気持ちに変化が生じはじめる。
夫の中に潜む女性の存在に気づいた妻は……
リリーのすべて(2015年)
20世紀前半に世界初の性別適合手術を受けたとされるデンマーク人画家がモデル。風景画家のアイナー(エディ・レッドメイン)は肖像画家の妻ゲルダ(アリシア・ビキャンデル)の頼みで女性モデルの役をしたのをきっかけに、自らに潜む女性の存在に気づく。「リリー」という女性として過ごす時間が増え、心と体の不一致に苦悩するアイナーは、最後に性別適合手術を望む。ゲルダは女性として夫に愛される人生を失うことに苦しむが、夫の願いを理解して支え続ける。アリシア・ビキャンデルは本作でアカデミー助演女優賞を受賞。
娘たちが連れてきた婿たちは?最後はほっこり、ドタバタコメディー
最高の花婿(2014年)
移民社会フランスを舞台に、異人種間の結婚にまつわるドタバタを描いたコメディー。保守的なカトリックの夫妻は上3人の娘がアラブ系、ユダヤ系、中国系の男性と結婚。夫たちは文化の違いからたびたび衝突するが、次第に打ち解ける。末娘はアフリカ系の青年との結婚を両親に報告するが、父はついに我慢がならなくなり、さらに青年の父親も白人嫌いのため、結婚に猛反対。結婚式は無事に挙げられるのか……。互いの文化をからかうようなきわどいやりとりにはらはらするが、最後には対話を重ねて仲直りする展開にほっとさせられる作品。
コロナ禍で大ヒット、韓国版ロミジュリ
愛の不時着(2019年)
韓国の財閥令嬢でもある女性実業家のユン・セリが、パラグライダー事故で北朝鮮に不時着。セリを見つけた北朝鮮軍人のリ・ジョンヒョクは、命をかけてセリを帰国させようとし、やがて2人に恋心が芽生える。北朝鮮の生活がリアルに描かれたことでも話題になった。
不器用だが優しいジョンヒョクと、利発だがもろさも抱えるセリが、次々と迫る危機を乗り越えるスリリングな展開。ジョンヒョクの部下たちや村人たちのユーモアと人情味あふれる掛け合いもドラマの魅力の一つだ。主演した2人は交際も報じられ、さらに世間の注目を集めた。
まだまだ続く、本国で大ヒットの映画、世界的な話題作も。さらに、なぜ人は「壁を超える愛」の物語にひかれるのでしょうか。「ロミオとジュリエット」をはじめシェークスピアの翻訳で知られる翻訳家・演劇評論家の松岡和子先生に聞きました。
■同性愛への偏見が強かった1…