第1回知られてはならない妊娠、何度も泣いた 内密出産の母が残した言葉

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 周囲に妊娠を知られるわけにいかない。どうしたらいいのか分からない――。

 はじまりは昨年11月中旬、慈恵病院(熊本市)の新生児相談室に届いた1通のメールだった。病院は、予期しない妊娠をした女性からの相談を24時間受け付けている。妊娠9カ月になる匿名女性のSOSだった。

 病院によると、西日本に住む10代の女性だった。その数カ月前、地元の産婦人科で一度受診し、妊娠したことを知った。だが、パートナーからはDVを受けており、妊娠を告げると関係を断たれた。女性の判断や行動に過剰に立ち入ろうとする過干渉の母親に知られれば、何をされるか分からないし、縁を切られるかもしれない。入寮して働く勤務先にも伝えられなかった。助けを求められる家族や知人はいなかった。

 周囲に妊娠が知られることを心配し、その後は病院に通えないまま月日が経過した。インターネットで調べるうち、慈恵病院の相談窓口にたどり着いた。

 病院は、親が育てられない子を匿名で預かる「こうのとりのゆりかご」(赤ちゃんポスト)も運営しており、女性は、自力で産んでゆりかごに預けることも考えた。だが、陣痛のつらさを職場で聞いたことがあり、病院に対して「赤ちゃんも自分も死ぬかもしれないと怖くなった」と説明した。

 妊娠相談に対応する職員はつながりを維持しようと、メールや女性からの非通知の電話でやりとりを続けた。母子の安全を考え、行政窓口への相談や、地元の病院を受診することを勧めると、返事が来なくなることが度々あった。

 そうした提案に乗らない女性の強い意志を感じ、相談員は「このままでは1人で産むかもしれない」との不安を強めた。

身元を明かさない女性に病院はどう向き合い、女性はなにを語ったのか。記事後半では、永遠に離ればなれになるかもしれない赤ちゃんとお母さんへ、2人をつなぐあるものが二つ、渡されます。

 連絡が途絶え、「心配しています」などとメールを送ると、「どうしていいか分かりません」と打ち返しがあった。出産予定日は数日後に迫っていた。慈恵病院までの長距離移動のリスクを考え、地元の産院で産むように説得したが、応じる様子はなかった。「慈恵に来ますか」。そう言葉をかけると、女性は「行きたいです」と答えた。

 「出血が始まった。赤ちゃん…

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    田渕紫織
    (朝日新聞社会部記者=メディア、子ども)
    2022年2月20日17時10分 投稿
    【視点】

    女性がひとりで抱えている事情の深さや重圧が伝わってきて、途中から読み進めるのも苦しくなるほどでした。 連載のタイトル通り、内密出産そのものだけではなく、なぜ内密出産をせざるをえない状況に追い込まれているか=「内密出産が問うもの」に目をこら

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