2月24日にロシア軍がウクライナに侵攻してから10日後、雑誌編集の仕事をするニキータ・グリゴロフさん(28)は、住んでいた首都キーウ(キエフ)の郊外都市イルピンを離れた。
「火炎瓶を準備してロシア軍と戦うつもりでした。でも、攻撃が激しくなって地下シェルターに隠れるようになり、やむを得ず脱出しました」
3月中旬、避難先の西部リビウで会ったグリゴロフさんはやつれていた。傍らに置かれたバックパックにはノート型パソコン、歯ブラシ、携帯型の充電器、わずかな着替えが詰まっていた。予期せぬことの連続で、持ってきたのは最低限の荷物だけ。彼の姿を目の当たりにして改めて、家を追われることの絶望、理不尽さを思った。
私はロシア軍が侵攻する約1週間前の2月16日から1カ月超にわたって現地に滞在し、多くのウクライナの人たちに話を聞いた。深く考えざるを得なかったのは、もしロシアがウクライナへの侵攻を強めて占領、もしくは傀儡(かいらい)政権を樹立してしまえば、市民の運命はどうなるのかということだった。そんな恐怖を前に、ウクライナの人たちは何を考え、どう行動するのかと。
「立ち上がるんです。とにかく、勝つことが大切なんです」。グリゴロフさんの答えは明確だった。そこには、「自由」と「ウクライナのアイデンティティー」を守ること、そして「ロシアの奴隷にはなりたくない」という、絶対に譲れない一線があった。
■ロシアが翻弄 初めてではな…
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