ウソやん!の局面、たった10分 渡辺明名人「みんな知ってるよね」

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村瀬信也
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 あれよあれよという間に、局面は検討室の棋士たちの思いも寄らない展開へと進んでいた。

 先手の斎藤が採用した戦法は相懸かり。駒組みが続いて穏やかな進行かと思われたが、1日目の19日午後2時ごろ、斎藤が仕掛けを決断する。その後、渡辺が香車を取られる手をあっさり甘受すると、副立会人の小林裕士七段(45)は「ウソやん!」と声を上げた。

第80期将棋名人戦七番勝負第4局が19、20の両日、山口市の「名勝 山水園」で指され、渡辺明名人(38)=棋王と合わせ二冠=が挑戦者の斎藤慎太郎八段(29)に100手で勝った。相手の攻めを真正面から受けて立ってリードを奪った背景を、将棋担当の村瀬信也記者が対局後の取材を元に探ります。

 そうした中、5二の玉を動かした△6三玉(図1)に対し、斎藤の手が止まる。先手は駒を得したものの、せっかくできた馬の活用が難しい。読み筋の中にある局面だったが、思った以上に有効な手が見当たらないのが斎藤の誤算だった。「相手の玉の急所がわからなかった」

 本局最長の1時間21分の考慮の末、斎藤が選んだ手は▲8六歩。△同飛と取ると▲2一馬や▲8八香といった手段が生じるが、渡辺は1時間5分考えて△8六同飛を決断し、相手の狙い筋に飛び込む。大胆不敵な一手。形勢はほぼ互角だったが、斎藤の攻めが一段落した後、渡辺は反撃に転じてペースをつかんだ。

 記者が不思議に思ったことがある。斎藤が仕掛けてから図1に至るまで、渡辺は計10分ほどしか時間を使わなかったのだ。対局後、夕食を終えた浴衣姿の渡辺に尋ねると、驚きの言葉が返ってきた。

 「△6三玉という手は、部分…

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