第1回ロシアの脅威・欧米への反発‥試練続く国際秩序、結束の広がりが重要
士気低下に苦しむロシア軍を、ウクライナ軍がじわじわと押し返す。侵攻から100日を経た今、このような戦況を誰が予想しただろうか。
2月24日にロシア軍の侵攻が始まってほどなく、ウクライナは国家としての存続が危ぶまれていた。軍事大国の攻撃を前に、抵抗には限界があると思われたからだ。事実、ベラルーシ領から南下したロシア軍は、約3日間で首都キーウ(キエフ)郊外のブチャまで迫った。
しかし、高い士気を誇るウクライナ軍は、欧米からの武器支援も受けて反撃。ロシア軍は周辺の町村で足踏みして首都に向かえず、4月1日までに撤兵を余儀なくされた。ハルキウやチェルニヒウ、スーミなど北部の都市を包囲していたロシア軍も追い返された。
【連載】世界はどこへ向かうか ウクライナ侵攻後を読み解く
世界を揺るがせたロシアのウクライナ侵攻。大国の暴挙はこれからの世界をどこへ向かわせるのか。冷戦後の国際秩序、グローバル経済、核なき世界の理念――。各分野の専門記者が「侵攻後」を読み解きます。第1回はウクライナで現場取材を続けてきた国末憲人ヨーロッパ総局長が論じます。
ロシア軍は南部の沿岸部を広く占領しており、南東部の要衝の港湾都市マリウポリも陥落させた。ただ、戦力を集中させているウクライナ東部でも小規模の戦果にとどまり、ロシアが当初描いた思惑にはほど遠い状態である。
この戦況は、ロシアの侵攻自体をどう位置づけるか、といった議論にも影響している。
冷戦時代、強大な軍事力を背景ににらみ合う米国とソ連とが、国家間の秩序を形づくっていた。どちらの陣営に属するかが、国家の命運をしばしば決めた。
しかし、1989年に「ベルリンの壁」が崩壊し、冷戦構造が終結して以来、国際法の順守や主権の尊重、人権擁護などを基本とする国際秩序が次第に定着した。物事の解決を力だけに頼らないこのシステムが機能することで、大国と小国の共存を可能にしていた。
ロシア軍の侵攻は当初、このような時代の終わりを告げるかのように受け止められた。
世界は、冷戦の時代に逆戻りするのではないか。ロシアや中国が力を振り回して、好き勝手に振る舞うようにならないか――。
ブルガリア出身の政治学者イワン・クラステフ氏は、米ニューヨーク・タイムズへの寄稿で、「冷戦後30年の平和な時代がいま終わる」と論じた。ベルリンの壁崩壊に伴う冷戦終結で、多くの市民は核戦争の脅威から解放されたと、めでたくも信じた。それは、第1次世界大戦と第2次大戦の間がそうだったように、次の戦争までの単なる「戦間期」に過ぎなかった、というのである。「プーチン大統領は旧ソ連への影響力を固めるだけでなく、次の劇的な段階に踏み出そうとしている」と。
ロシア崩壊の「最終段階」
だが、ロシア軍の劣勢が明ら…
- 【提案】
「「ルールに基づく国際秩序」の擁護を責務と位置づけてきた日本には、その理念を具体的に実現する努力が求められている」。現地をずっと見てきたベテラン・ジャーナリストがそういう。その通りと思う。 まだ侵略を受け続けている国に、軍事的にできる
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