摩天楼の先に広がるスラム街 「人口世界一」インドの格差と希望

有料記事インド新時代

ムンバイ=石原孝
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 国連の推計で、中国の人口を抜いて世界一になったインド。少子高齢化が進む日本と違って若者が多い「大国」の誕生に、各国の注目も高まっている。インドの時代は来るのか? 巨大市場の実像を探った。

 約2000万人が住む商都ムンバイ。国内外の企業が入る高層のビルやマンションが立ち並び、真新しい都市型鉄道(メトロ)や橋などのインフラ整備工事も至る所で進んでいる。

 4月18日、外国の人気ブランド店や日本の無印良品も入る新興ビジネス地区のショッピングモールに、米アップル社のクック最高経営責任者(CEO)が駆けつけた。アップルの直営店が、インドで初めて開店するのを祝うためだ。

「脱中国依存」目指すアップル

 店内では、着飾った人たちが12万9900ルピー(約21万7000円)するiPhone(アイフォーン)の最新機種やアップルウォッチを眺めていた。

 ラジオ局で働くアマル・ガウダさん(30)は友人と一緒に訪れ、店の前で記念写真を撮っていた。「この国はどんどん発展している。明るい未来が待っているよ」と笑った。

 商品の価格が高いアップルの販売シェアは、韓国製や中国製に押されてまだ5%程度だ。しかしアップルは、これから経済成長や中間層の増加が期待できるインドでの製造を拡大している。米国と中国の覇権争いが激しくなり、生産拠点も販売市場も、「中国依存からの脱却」が求められ始めた背景もある。

 インド政府も、1990年代から経済の自由化を本格的に進め、外資規制を少しずつ緩和してきた。2014年に就任したモディ首相は「メイク・イン・インディア」を掲げ、増え続ける若年層の雇用の場としても製造業の育成に力を入れている。

 インドへの外国直接投資(FDI)は、00年度に約40億ドル(約5570億円)だったのが、21年度には約850億ドル(約11兆8000億円)と21倍になった。多国籍企業が研究開発の拠点をインドに置く事例も相次ぐ。

アップルの店舗から1キロ先には……

 ムンバイの真新しいビルに事務所を構える不動産コンサル事業会社のショビット・アグラワルCEO(48)は「IT企業や金融業界に勤める人を中心に、不動産需要も拡大している。5000万ドル(約70億円)もする高級マンションを買う富裕層も少なくない」と言った。

 米フォーブス誌が今年発表した「世界長者番付」では、インドの大手財閥「リライアンス・インダストリーズ」を率いるムケシュ・アンバニ氏(834億ドル)ら6人が上位100人の中に入った。アンバニ氏の自宅は、ムンバイにそびえる27階建てのビルで、10億ドル以上かけて造られたと報じられた。

 だがムンバイには、まったく…

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この記事を書いた人
石原孝
ニューデリー支局長|南アジア担当特派員
専門・関心分野
アジアやアフリカの新興国・途上国の情勢
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    千正康裕
    (株式会社千正組代表・元厚労省官僚)
    2023年6月26日12時34分 投稿
    【視点】

    僕が、インドの日本大使館に赴任していた2013年から2016年の時点でも、インドは勢いのある国だったが、その勢いは近年さらに増していると感じる。人口世界一となり、また若い人が多く経済成長も著しい、非常に勢いのある国で巨大なプロジェクトも進み

    …続きを読む