ついに終わる外国人技能実習、30年の光と影 新制度への真の教訓は
中国、インドネシア、ベトナム――。この30年、主にアジア諸国から多くの若者が技能実習生として来日し、工場や農家などで働いてきた。一方で人権上の課題も指摘され続け、ついに今夏、政府は制度解消を表明した。長年、現場で制度運営にも携わってきた国際労働移動の研究者、万城目正雄さんに、30年の功罪と教訓を聞いた。
「このままだと実習制度がなくなっても、ベトナム人労働者が多額の借金を抱えて来る実態は変わらない」。万城目さんが、そう語る理由とは。記事後半では自由人権協会理事の旗手明さんも、新たな外国人受け入れ制度に向けた課題を語っています。
――海外への技能移転や国際貢献を目的に掲げつつ、実質的に労働力を補ってきた技能実習制度が始まったのは1993年。今や、外国人労働者の5人に1人が実習生です。
「技能実習は、各地の商工会議所など非営利組織が『監理団体』として実習生を受け入れ、傘下の企業や農家などで働いてもらう枠組みです。政府と経済界は円滑な制度運営のため、監理団体や企業・農家の指導、実習生の送り出し国との折衝などにあたる財団法人、国際研修協力機構(現・国際人材協力機構)を設立しました。私は機構に97年から約20年勤め、各地の監理団体や受け入れ先の企業などに助言・指導したり、アジア各国との協議に参加したりしました」
「入った当時はバブル経済の崩壊で景気低迷が続き、実習生へのニーズはそれほど高くありませんでしたが、2000年代に入ると『いざなみ景気』(02~08年)で受け入れ企業が続々と現れ、07年には新規入国が年10万人を超えました。08年のリーマン・ショックや11年の東日本大震災で一時的に落ち込みましたが、人口減のもとで景気が回復すれば人手不足が成長のボトルネックになると考えられ、『アベノミクス』で外国人材の受け入れ拡大が明確に打ち出されると、14年以降は受け入れが急増しました」
――なぜ、こんなに受け入れが広がったのでしょうか。
「実習生が働く会社の9割は、人手不足にあえぐ従業員100人未満の中小・零細企業です。頼りだった地元志向の強い高校新卒は、2000年の24万人から15年には19万人に減り、その分を実習生が補いました」
「中小・零細企業は、多品種・短納期・低コストで受注生産していることが多く、遠い先までは経営を見通せない。初めて外国人を雇う企業にとって、通常3年の実習期間が終われば帰国する実習生は、心理的にも受け入れやすかったのだと思います」
「広島のカキ養殖や造船、愛知や静岡の自動車部品製造業……。全国の監理団体や受け入れ企業に足を運ぶなかで、実習生が地域産業の屋台骨を支えている例を数多く見てきました。受け入れをきっかけに、作業マニュアルを整備して生産効率を高めたり、実習生の出身国に進出して現地生産を始めたりした会社もあります。日本で経験を積み、帰国後に日本語を生かした職業に就いたり、起業したりして活躍している元実習生にも、何人も会いました」
借金問題、必要なアプローチとは
――一方、実習生は多額の借金を背負って来日し、過酷な働き方をさせられても返済のために我慢せざるを得ないとして、「強制労働」とも批判されてきました。
「実習生の日本語力では、自分の意思や労働者としての権利を、きちんと主張できない。『奴隷制度』と言われても、やむを得なかったケースもあります」
「ただ、必ずしも実習制度だ…