「将棋の神様、と言えば終わる」 斎藤明日斗、25歳の揺れる思い
将棋棋士の斎藤明日斗五段(25)は、昨年度に藤井聡太名人・竜王(21)に次ぐ全棋士2位の高勝率を挙げた若手有望株である。兄弟弟子の本田奎六段(26)、伊藤匠七段(21)の活躍に奮起した若者は、八冠が君臨する時代をどのように生きようとしているのか。5日の第82期名人戦・C級1組順位戦の阿部健治郎七段(34)戦に臨む前に話を聞いた。
2023年2月2日、午前5時。
遠征先の大阪での朝だった。
夢から早く目覚めた斎藤明日斗は、ただならぬ異変に気が付いた。
かつて味わったことのない激痛が右肩を襲っていた。何の前触れもないままに。
まずい、と焦った。10時から順位戦が始まるのに。右だから駒も持てないかもしれない、との懸念を要する痛みだった。
まだ病院も薬局も開いていない時刻。どうしよう、と考えた。少考し、導き出した勝負手はコンビニへと急ぐことだった。
買い込んだ冷却シートをペタペタと大量に患部に貼り付けることを応急処置とした。そして、意を決して関西将棋会館へと向かった。
第81期名人戦・C級2組順位戦。全56人が各10戦のリーグ戦を戦い、わずか3人しか昇級を果たせないマッチレースは「ラス前」の通称がある9回戦を迎えていた。
8戦全勝と首位を走っていた斎藤は、同日の南芳一九段戦が「勝てば昇級」の大一番だった。状況としては有利だったが、上がれる時に上がらないと好機は二度と訪れなくなるのが順位戦の鉄則。必勝を期する中での受難だった。
兄弟子と弟弟子が与えてくれたもの、藤井聡太八冠がいる時代に棋士であること。「パッション明日斗」こと斎藤五段が情熱的に語る過去、現在、未来、夢。
「最初、本当に対局はできな…