第12回人新世を人類が生きる道 斎藤幸平さん「脱成長」、知の巨人の答えは
世界各地で異常気象が頻発する一方で、脱炭素は進まない。地球を壊してしまうのか、それとも技術革新で解決できるのか。脱成長を提案する斎藤幸平さんが、「知の巨人」と評されるジェレミー・リフキンさんと、人類が生き残る道をリモート形式で語り合った。
斎藤 「地球沸騰化の時代が到来した」と国連のグテーレス事務総長が指摘するように、2023年は観測史上最も暑い一年でした。海水面の温度も過去最高で、状況は危機的です。
リフキン 海水面の温度上昇により、大気に放出される水蒸気が増えています。地球の水循環が変わってしまい、大雪や洪水、猛烈な台風やハリケーンが発生しています。
斎藤 19世紀の産業革命以降に気温が1・2度上昇してこれだけ問題が起きているのに、先日の国連気候変動枠組み条約第28回締約国会議(COP28)でも化石燃料廃止に向けた大胆な動きはなく、パリ協定で決めた1・5度上昇に抑えるという目標の達成は絶望的です。
リフキン 化石燃料は過去2世紀にわたって産業を発展させてきた半面、膨大な量の温室効果ガスの原因となり、地球上の生命は6度目の大量絶滅へと向かっていると言われています。経済や社会についての考え方を根本的に見直さない限り、温暖化を食い止められません。けれども国連も各国政府も、既存の枠組みにしがみついたままです。
「進歩の時代」が終わり 「レジリエンスの時代」へ
斎藤 気候変動がもたらす異常気象や災害により食料や水が不足し、供給力に制約がかかります。そのためインフレも恒常化し、難民も増えるでしょう。ますます経済格差や不安が広がり、移民排斥を訴える右派ポピュリズムが力を増すなどして民主主義も揺らいでいく。いわゆる複合危機が進んでいきます。
こうした状況を、リフキンさんは著書「レジリエンスの時代」で、「進歩の時代」の終わりだと指摘しています。産業革命を起点とする、効率と生産性の追求は限界を迎えたのだと。では、次なる「レジリエンスの時代」とはどういう未来なのか。レジリエンスは一般には「回復力」と捉えられている言葉ですが、それ以上の意味で使っているように読めました。
リフキン 回復だけでなく、自然に適応し、共存する能力が私の考えるレジリエンスで、今後の人類に必要な力です。人間は地球環境を支配するのをやめ、自然のほうに適応しない限り、存続は危うい。それが「レジリエンスの時代」なのです。天然資源を収奪し、その上に豊かさを築いてきたのが「進歩の時代」でしたが、そのツケが限界に達しているわけです。
脱成長か技術革新か 複合危機を乗り越える道筋は
斎藤 「進歩の時代」は資本主義が発展した時期と重なります。経済成長を追い求める人類が地球を変えるほどの力を持ったという意味で「人新世」という言葉もありますが、「人新世」の複合危機は「進歩の時代」の帰結であるとも言えます。
私は、この危機を乗り越えるには、資本主義からの脱却が必要だと考えています。それでマルクスを研究しているのですが、実は晩年のマルクスは、非西欧社会に目を向けながら人間の活動と環境を調和させる方法を考えていて、「脱成長」の考え方に親和的になっていきます。それはレジリエンスの発想とも通じあうものですが、脱成長と脱資本主義の必要性についてどう考えていますか。
リフキン ここは少し意見が…
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