最後になった「ばいばい」 冷たかった娘の手 池袋暴走、遺族の5年
朝、自宅を出て仕事場に行く。今は静かな部屋。鉄製のドアノブを握って閉め、足早に向かう。
5年前のあの日。妻と3歳の長女はいつも通り、自分を玄関まで見送ってくれた。
「ばいば~い」。娘は手を振る代わりに、こちらにおしりを向けて揺らした。「マイブーム」らしい。
正午。職場から日課のビデオ通話をすると、チューリップハットにデニムの服を着た娘が映った。お気に入りの公園に遊びに来ているという。
「パパ、きょう定時なの?」。残業せずに帰るよ。今日も絵本読もうね。そう話した。
昼休憩が終わって仕事に戻ったころ、スマホが鳴った。表示は「非通知」。警察だった。
「奥様とお嬢さまが事故に遭われました」
容体を聞いた。相手は答えず、すぐに病院へ向かうよう促すだけだった。職場に事情を話し、電車に乗ったところでスマホが震えた。
ニュース速報:池袋で発生した事故 30代くらいの女性と3歳くらいの女児が心肺停止
どうやって病院へ行ったのか、今も思い出せない。
案内された部屋。2人が横たわっていた。顔の布を取ると、妻だった。隣の小さな顔の布を取ろうとすると、看護師に止められた。布の下の顔は、形が変わってしまっているのがわかった。手を握ると、娘だった。冷たく、硬くなっていた。
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2019年4月19日、東京・池袋で高齢者が運転する自動車が暴走し、12人が死傷した。妻の真菜さん(当時31)と長女の莉子ちゃん(同3)を失った松永拓也さん(37)はそれから5年、事故防止を訴え続けてきた。高齢者運転対策で法律は改正されたが、今も事故は絶えない。
3回目の告白 「いいよの日だよ」
真菜と出会ったのは、親戚が住む沖縄だった。2013年の夏。いとこの紹介で待ち合わせた喫茶店の前で、小柄な女性が後ろ手を組み、少し身をかがめて店の看板を見ていた。一目ぼれだった。
東京に戻ってから、毎日電話した。月に2~3回、沖縄に通い、海や城跡、離島へ行った。彼女も上京してくれ、毎週のように会った。ただ、交際を2回申し込んでも、OKしてくれなかった。
沖縄に通うお金も底をつきか…