「先の大戦」の呼び方、なぜ議論は決着しない 一つでくくる難しさ
陸上自衛隊の第32普通科連隊がSNSでの投稿に「大東亜戦争」という用語を用いたことで、日本が1945年まで戦った戦争をどう呼ぶべきかの議論が改めて注目された。「大東亜戦争」「太平洋戦争」「十五年戦争」「アジア(・)太平洋戦争」。それぞれの呼称にはどのような問題が指摘されるのか。戦争の呼称をめぐる言説を長く研究してきた防衛省防衛研究所研究顧問の庄司潤一郎さん(65)に聞いた。
陸自の投稿を巡る経緯
陸上自衛隊大宮駐屯地(さいたま市)の第32普通科連隊が、X(旧ツイッター)の公式アカウントで5日、硫黄島(東京都)であった日米合同の戦没者追悼式を伝える投稿で「大東亜戦争最大の激戦地硫黄島」と記述。ネットなどで「侵略戦争を正当化する用語だ」などと議論を呼び、同隊は8日に投稿を削除。「大東亜戦争」を使わない文章に変えて再投稿した。木原稔防衛相は「(大東亜戦争は)一般に政府として公文書に使用していないことを踏まえた」「硫黄島が激戦の地であった状況を表現するため、当時の呼称を用い、その他の意図は何らなかった」と説明。林芳正官房長官は「いかなる用語を使用するかは文脈にもより、一概に答えられない」と述べた。
――第2次世界大戦の時期に日本が戦った戦争をどう呼ぶのか、なぜ議論が続くのでしょうか
日本が戦った戦争について、その終わりは1945年8月15日でほぼコンセンサス(合意)があります。しかし、それがいつから始まったかといった戦争の起点については盛んに議論されてきました。その背景には戦争のみならず近代日本の「侵略」をめぐる歴史認識の相違もあり、いずれの呼称にしてもイデオロギー的な文脈をはらみます。
「大東亜戦争」と「太平洋戦争」の定義について国会でただされた政府は、2006年の質問主意書の答弁書で、「定義を定める法令はない」「いかなる用語を使用するかは文脈による」としており、これまでの公的機関の公刊物ではどちらの呼称も見られます。天皇陛下の「お言葉」では「先の大戦」という呼称が使われています。
――「大東亜戦争」という呼称はなぜ使われるようになったのでしょうか
そもそも「大東亜」とは、日…