土砂災害の跡地に相次ぐ新築 動き出した市街化抑制の「逆線引き」
「土石流で電柱が倒され、飛び散った火花の光で、向かいの家2軒が押し流されるのが見えた」。広島市安佐南区緑井8丁目に住む谷本勉さん(72)は、2014年8月20日未明に地区を襲った土砂災害の様子を、今もありありと覚えている。
谷本さん宅は、山に近い場所に立っているものの、谷筋から少し外れているため、敷地に土砂が流れ込んだだけで済んだ。ただ、この土砂災害で、広島県内では77人が死亡(災害関連死含む)。緑井8丁目では5人(同)が亡くなった。
県内では、高度経済成長期に山裾まで広がった住宅地で土砂災害が相次いで発生。そのため県は来年3月、開発を優先的に進める市街化区域を、原則として新たな建物が建てられない市街化調整区域に戻す「逆線引き」を実施することを決めた。住民を災害リスクの高いエリアから低いエリアに誘導するためだ。
具体的には、市街化区域内の端にある土砂災害特別警戒区域のうち、住宅や店舗のないエリアを市街化調整区域にし、新たな居住者をほぼなくすのが狙い。
緑井8丁目には土砂災害後、巨大な砂防堰堤(えんてい)ができ、ほとんどが土砂災害特別警戒区域から外れた。崖に近い一部のエリアが特別警戒区域として残ったため、そこが逆線引きされる予定だ。
逆線引きの対象エリアでは、地価の下落や住民の転出の恐れがある。それでも、谷本さんはやむを得ないと考えている。地区内では、土石流で家が流された跡地に移り住んだ家族が何組もいるといい、災害の恐ろしさが十分に伝わっていないと感じる。「親しかった近所の人が亡くなってショックだった。同じような災害が起きる可能性を減らすためにも、逆線引きのような規制は大切ではないか」と語った。
キーワード
逆線引き 高度経済成長期の宅地需要の高まりに伴い拡大した「市街化区域」を、開発を抑制する「市街化調整区域」に戻すこと。これまでは主に森林や農地を保護する目的で行われてきたが、人口減少を背景にした都市機能の集約や、災害リスクの低減を目的に実施する動きが出始めている。
各地で始まる防災目的の「逆線引き」 住民の理解がカギに
戦後の人口増加で丘陵地にま…
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