運転免許試験場に花と笑顔を 勤続28年の野田さんに感謝状
なかなか試験に合格できず落ち込む人。念願かなってプロドライバーの道が開けた人。佐賀市の運転免許試験場で繰り広げられてきた悲喜こもごもを28年にわたり見続け、受験者たちから慕われてきた女性に、佐賀県警から感謝状が贈られた。
警察の感謝状というと、人命救助や容疑者検挙、犯罪や事故の防止への貢献が定番だが、県警は女性の人柄が「運転免許行政に多大な貢献をした」と評価したという。
人の姿がまばらで静かな試験場の中が、時折ぱっと明るくなる。講習を終え帰ろうとした自動車教習所の指導員の女性は、清掃員の野田広美さん(80)の姿を見ると満面の笑みを見せた。「今日はどうしたと?」「元気にしてる?」と言葉を交わす。
野田さんは、清掃の合間に人が通ると、たびたび親しげに話をする。時には手を握ったり、肩をたたかれたり。
お知り合いですか、と聞くと、「もう20年の付き合い」「試験を頑張って、合格した時はおばちゃーん、って元気に報告してくれた」などと教えてくれた。
野田さんは1996年、夫の親元に引っ越してきてから職業安定所で仕事を探し、試験場の清掃の仕事を紹介された。以来、ずっと1人で担ってきた。清掃業務の契約会社がかわっても、新しい会社から野田さんに声がかかるのだという。
毎年春休みの時期になると、卒業を控えた高校生たちが、就職のために免許を取ろうと試験場に来る。試験に落ちて泣いているのを見かけると、「がんばりんしゃいよ」と声をかけた。「あんまり同情してもいけない」と、明るくさりげなく。
5回目でやっと合格した、と肩を組んで喜び合った子。どうしても合格がかなわず、自転車で頑張っている様子を見せてくれた子。顔を見たくて、と通りかかりに立ち寄ってくれる人もいる。
教習所の先生たちとはすっかり顔なじみだ。「あそこには女神がおるけん、大丈夫よ」と生徒を励ましている、と聞いた。「試験とは直接関係がないから、かえって声を掛けやすい。声を掛けられたらうれしいだろうしね」と野田さんは笑う。
試験場に飾られている花や観葉植物も、いくつかは野田さんが持ってきたものだ。「スーパーで自宅用に買うときに、一緒にね。少しでも受験者の気持ちが晴れるように」
県警は7月17日、「受験者にあいさつや励ましの言葉をかけるなどして心の支えになり、老朽化で暗くなりがちなロビー各所に自前で花を飾り雰囲気を明るくして、受験生や職員のストレス緩和や士気の向上につなげている」として、野田さんに感謝状を贈った。
試験場長を兼ねる平川博幸・県警交通部参事官は「これからもずっといて欲しい、という気持ちを込めた」と話す。
野田さんは1男1女を育て上げ、今は夫と2人暮らし。「体を動かしている方がいいし、ここに来ると一日が楽しい。まだまだ頑張ります」