ノーベル賞研究の源流 乗鞍観測所「朝日の小屋」に記念碑
東京大学宇宙線研究所は29日、乗鞍岳の山頂付近にある乗鞍観測所(岐阜県高山市、標高2770メートル)にあった「朝日の小屋」の跡地に記念碑を建立したと発表した。高山における日本の宇宙線共同研究の「発祥の場」として貢献し、ノーベル物理学賞を受賞したニュートリノ研究などの源流にもなったとしている。
朝日の小屋は、1950年に朝日新聞社の朝日科学奨励金を受けて建てられた。53年に隣接地に観測所が建設された後も「分室」として活用され、2018年に老朽化のために解体されるまで68年間にわたって観測を支えてきた。乗鞍観測所が昨年、開設70周年を迎えたことを受けて宇宙線研究所が記念碑の設置を進めてきた。
記念碑は大人の腰ほどの高さで、地元産の安山岩の本体に黒御影石の文字板が埋め込まれている。「朝日の小屋址(あと) 高地における日本の宇宙線共同研究発祥の地」との表題や設置の経緯に加えて、「我が国の宇宙線研究に大きな飛躍をもたらし、研究水準を世界一流に向上させるのに大きな役割を果たした」などと記されている。
大気が薄い高地は、宇宙から降り注ぐ素粒子の観測に適している。加速器での研究が本格化する前は、高地での宇宙線観測が主流で、戦後の日本でも欧米との観測競争の遅れを取り戻そうと研究が始まった。
その後、日本の宇宙線研究は、小柴昌俊博士の超新星ニュートリノの観測や梶田隆章博士によるニュートリノに質量があることの発見で、二つのノーベル物理学賞に輝くなど「お家芸」とも呼ばれる分野に成長した。
乗鞍観測所の﨏(さこ)隆志所長は「全国の研究者たちが共同の施設で宇宙線を観測する文化が定着したのは、戦後に共同研究が始まった朝日の小屋にさかのぼる。日本の宇宙線研究の基礎となり、発展に貢献した」などと話している。
朝日新聞社の角田克社長は祝辞で、「私たちにとってたいへんな誇りであるとともに、一報道機関としても身に余る栄誉であります」などとしている。