ノーモア・ミナマタ2次訴訟 舞台は高裁へ
「第2の政治解決」とされる水俣病被害者救済法(特措法)でも救済されず、司法に解決を求める「ノーモア・ミナマタ2次訴訟」。熊本、大阪、新潟の3地裁の判決は明暗が分かれた中、「原告全員勝訴」の大阪地裁判決をめぐる論戦が、今後の攻防の中心となる。控訴審で先陣を切った大阪高裁で25日、初回の口頭弁論があり、双方が激しく主張をぶつけあった。
国や加害企業に賠償を求めるノーモア2次訴訟は熊本、大阪、東京、新潟で提訴された。
近畿訴訟は昨年9月、大阪地裁が原告128人全員を水俣病と認め、賠償を命じた。だが、3月の熊本地裁判決は全員敗訴、4月の新潟地裁判決は一部勝訴にとどまった。
ポイントは「疫学」「共通診断書」「除斥」の評価。中でも「疫学」の判断が大阪と、熊本・新潟との違いを際立たせた。
水俣病は、どの範囲にどの程度の被害が広がったかという調査を国などが実施しなかったため、全容が不明のままだ。
しかし、住民らが水俣病の被害を訴えても、水銀汚染を示す細かな資料の提出を求めるなど、国は被害者に高いハードルを課している。
そこで原告側は、これまでに断片的に行われてきた疫学調査を分析した結果から「被害者がメチル水銀汚染地域で居住し、特有の症状が見られれば、水俣病と判断できる」とする津田敏秀・岡山大名誉教授の主張を前面に出して争っている。
大阪地裁は「疫学は重要な基礎資料になる」と判断したことから原告全員を水俣病と認めた。熊本、新潟地裁は疫学を判断材料としなかったため、原告にとって厳しい判決となった。
25日の弁論でも国側はもっとも時間を割いて反論。「津田氏の主張は、水俣病の過去の訴訟で一度も採用されておらず、疫学に依拠した一審判決は異質」と強調した。
これに対し、原告側は「四日市公害訴訟などほかの公害裁判では疫学は採用されている」「一審判決は、疫学だけでなくほかの要素もていねいに検証して水俣病と判断している」と反論した。
原告が水俣病と訴える根拠とする「共通診断書」の信用性も争点だ。
水俣病の診察にかかわった民間医師が、診察方法などを細かく定めた共通診断書について、加害企業チッソの代理人は「患者掘り起こしのために作られたもの」と批判。国側の代理人も「一般に支配的な医学的・科学的知見に反する」と何度も繰り返した。
これに原告側は、診断が医師の主観に左右されないよう、むしろ公平になるよう策定されたものだと主張。国が一般的知見とする専門家の意見については、「水俣病を知る研究者の意見は最重症者を前提にしたものに過ぎず、それ以外の研究者の意見は水俣病の実態を知らないもの」と批判した。
熊本・新潟地裁は、水俣病の認定作業で使われる公的検診録を重視した。近畿訴訟の控訴審で国側は、一審で公的検診録が未提出の原告について提出を求め、裁判所も採用したという。今後、公的検診録の信用性が争われる見通しという。
不法行為から20年で賠償請求権が消える「除斥期間」については、旧優生保護法の下での不妊手術は違憲と争った訴訟で今年7月、最高裁が除斥について「適用するのは著しく正義・公平の理念に反する」とした。水俣病の訴訟にどう影響するかも注目される。
次回弁論は12月13日。