国文化財、県内から新たに7件 旧九州芸工大建物群「造形の規範」
福岡市南区の旧九州芸術工科大学の建物群5件と、福岡市東区の「旧大学湯」、福津市の「旧玉乃井旅館」の計7件が、国の有形文化財(建造物)に登録される見通しとなった。国の文化審議会が22日、文部科学相に答申した。県内の国登録有形文化財(建造物)はこれで229件になる。
「旧大学湯」は、九州帝国大(現・九州大)のキャンパスがあった箱崎で、80年にわたって学生や地域住民に親しまれた銭湯だ。1932年の創業当時から玄関に掲げる「大学湯」の看板や、昭和初期の洋風な外観などが、地域の歴史的景観に寄与していると評価された。
銭湯建築としても見どころが多い。男湯と女湯用の二つの入り口が並び、中央に番台を構える。脱衣場の板床や靴箱、衣類箱も、営業当時のままに残されている。
建物を所有する一般社団法人の代表理事・石田健(たけし)さん(69)は、銭湯を創業した石井フミさん(故人)の初孫。石田さんは箱崎で生まれてすぐに県外へ移り住んだが、母親との里帰りのたびにここで一番湯につかり、牛乳を飲むのが楽しみだったという。
2012年、銭湯は廃業。一時は取り壊しの案も持ち上がったが、石田さんは「自分をかわいがってくれた祖母と、銭湯との思い出がよみがえり、どうしても壊したくないと思った」。6年後、ほこりをかぶっていた施設内を清掃し、今後の利活用を考えるイベントが開かれた。
幼い頃から親子3代で銭湯に通っていたというアーティストの銀ソーダさん(29)は、このイベントに訪れたことをきっかけに、石田さんと意気投合。当時は「空が見えるくらい、屋根が劣化し雨漏りしていた」(石田さん)という大学湯を、レンタルスペースやアトリエとして生まれ変わらせ、21年からともに運営している。
石田さんは「箱崎には今、若い人たちが古い建物を大事にし、次につなげていこうという息吹がある。自分の人生を豊かにしてくれたこの建物が、地域にとっても大切な財産になってくれたらうれしい」と話している。
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旧九州芸術工科大学(現・九州大大橋キャンパス)の建物群は、1968年の創立後、70年に建築家の香山壽夫・東京大名誉教授の設計で建設された。通称「フライパン広場」と呼ばれる中庭を囲むように建つ5棟が、香山氏の初期代表作であり、造形の規範となっているものとして評価された。
登録される5棟はいずれも打ち放しコンクリートによる幾何学的な造形を特徴とし、左右対称で統一感や調和を感じさせる造りになっている。6階建ての「環境画像棟」と「工業音響棟」は中央の円窓をシンボルに左右対称の造り。広場を挟んで向かい合って建ち、現在は九州大大橋キャンパスの1、2号館として講義室や研究室がある。
室内にはラウンジやテラスなど展示や交流を想定したスペースがある。広場も含め一体として、教員や学生同士の活発な交流や出会いを誘発する空間が設計されている。
九州大芸術工学研究院の田上健一教授は「(高度経済成長下で)社会をつくっていく当時の思想や理念がまっすぐに表現されていて、それが評価されうれしく思う。学問分野をアピールするいい機会であり、芸術工学の未来をのぞいていただけるとうれしい」と話した。