余命2カ月、地震で実家被災…… 「三本の矢」に願い込めたカフェ

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小崎瑶太
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 焼き芋をコーヒーとともに楽しめるカフェが、金沢市涌波1丁目にオープンした。店名は「スリーアローズ」。文字どおり「三本の矢」から命名した。店主は小村美奈子さん(53)で、夫でオーナーの宗紀さん(58)と2人できりもりしている。焼き芋を売り始めたのは、焼き芋に救われたという経験からだった。

 宗紀さんが53歳になったばかりのことだった。2019年9月末、富山市内の自宅で寝ていた宗紀さんを激痛が襲った。突然背中に痛みが走り、呼吸ができなくなるほどだった。何とか自力で病院に行き、X線を撮った。

 がんと診断された。右の肺の上に握りこぶし大の腫瘍(しゅよう)があり、他にも左右の副腎、骨に9カ所の転移が見つかった。手術もできない状態だったという。

 医師には余命2カ月と告げられた。5年間の生存率は5%、人工呼吸器を付けないと窒息死してしまうという。

 しかし宗紀さんは「100人のうち5人助かるなら、たぶん5人に入るはずだ」と前を向いた。妻の美奈子さんも「いままでも頑張ってきたし、不思議と負ける気がしなかった」と言う。

 医師からは、できるだけ食事をして体力をつけるようにと伝えられたが、抗がん剤の副作用で味覚障害が起きていた。何を食べても「甘い」と感じてしまう。あごにも転移し、歯茎がしみるようになった。

 そんなとき、お見舞いに焼き芋をもらった。そのまましばらく放置して冷めてしまったものを口に入れてみると、おいしかった。

 「甘くないものを食べて甘いとつらいけれど、これなら食べられる」

 柔らかいので牛乳と一緒に流し込むこともできた。冷めた焼き芋を食べ続け体力を増やし、抗がん剤治療も順調に進んだ。2020年2月、退院した。

 「焼き芋で助かったから、役立つものとして他の人にもすすめたい」

 体に無理のきかない宗紀さんに代わって美奈子さんが、道の駅で焼きそばを売ったり、スーパーの店先で焼き芋を売ったりした。

 再発したがんと闘いながら23年12月、金沢市内の新居に引っ越し、自宅前で焼き芋などをテイクアウトで売ろうと考えた。その矢先、能登半島地震が起こった。

 元日、2人は娘2人と宗紀さ…

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