原発事故で避難の幼稚園児が二十歳の門出 町の「式典なし」決定も…

大久保泰 滝口信之
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 13日の「成人の日」を前に、11、12の両日、福島県内各地で二十歳の門出を祝う「成人式」があった。今年の式に参加するのは、東日本大震災当時は就学前だった人たちだ。双葉町と大熊町の式では、故郷での式を喜び、原発事故で幼くして離ればなれになった友達と再会する姿があった。

双葉町、20歳が「祝う会開いて」

 福島県双葉町では11日に「はたちを祝う会」が役場内で開かれた。対象者81人のうち、12人が町外から参加した。伊沢史朗町長は「ふるさと双葉の推進力になってほしい」とエールを送った。

 「祝う会」の参加者は年々減り、昨年度は9人だった。原発事故による避難で、町内で暮らした年月が短い人たちが対象となっており、町は、今年度は開催しないことをいったん決めた。代わりに昨年9月、対象者らが町内を回るツアーを行った。すると今年度二十歳を迎える参加者から「祝う会を開いてほしい」との声が出てきた。ツアーに来た中から7人がこの日、参加した。

 大学2年生の新妻和樹さん(20)は幼稚園まで町内にいた。よく通った祖父母の家は東京電力福島第一原発近くの郡山地区にあった。「毎年、近くの神社で開かれる祭りに行って、にぎやかだったのを覚えている」

 祖父母の土地は除染土を保管する中間貯蔵施設内に入り、取り壊されることになった。高校生の時、家を訪ねると、草が生い茂り、家の中は動物に荒らされていた。「人の住む所ではなくなっていて悲しかった」

 祖父はJR双葉駅近くに家を再建し、新妻さんは大学が休みの時は祖父の家に通う。「教師になって、復興に役立てるようになりたい。二十歳になってその責任感が強くなった」と言った。

 松本来夢(くるみ)さん(20)は、いわき市から来た。振り袖姿で参加し、「故郷で成人式ができて良かった」。春からは保育士になるため、大学に進む。「6歳までいた双葉の記憶は少ないが、こうして思い出を増やしていきたい」と語った。

 「幸せが溢(あふ)れる町」「福島の新たな中心地へ」。12人が書いたメッセージは建設中の橋に刻まれる予定だ。

式典参加、避難先かふるさとか

 福島県大熊町で12日にあった「二十歳の成人式」には震災当時、幼稚園年長だった6人が参加した。

 「震災当時、幼稚園児だった私たちですが、大きな揺れと、幼いながら感じた恐怖は忘れたくても忘れられません」。明海大2年の新田萌さん(20)は誓いの言葉でこう振り返った。

 原発事故後、大熊町の学校が再開した会津若松市に移り住んだ。小学6年でいわき市に引っ越すまで通い続け、いわき市内の中学校を卒業した。

 中学を卒業し、現在の避難先のいわき市か、幼稚園まで過ごした大熊町のどちらの式に参加するか迷った。昨年10月ごろ、会津若松市の学校に通っていた友達から大熊町の式に参加すると連絡があり、「小学校以来で再会できる友達もいる」と大熊町での参加を決めた。

 昨年12月に町から依頼があり、誓いの言葉を述べることが決まった。こだわって入れた言葉がある。「新しい物を作っていくことだけが復興ではないのでは」という一言だ。

 高校生のときに震災後初めて町内を訪れると、記憶に残る建物はほとんど姿を消していた。「私たちの思い出がなくなっていく。残してもらうことも復興につながるのでは」と感じた。

 式には会津若松市の小学校で一緒に過ごした4人が参加した。「連絡を取ることはできても、なかなか会うことができていなかった。大熊の式に来てよかった」と笑顔を見せた。

 将来は英語を使って故郷・大熊町に貢献することを目指している。「これから先、私たちのような経験をすることがないように日本だけではなく、世界の人たちに(震災の経験を)伝えていきたい」

 福島県によると、今年の成人式対象者数は1万8098人で、統計が残る1981年以降最少となった。96年の3万1833人をピークに減少が続く。

 成人式は多くの自治体で11、12日に開催されたが、会津地方と天栄村、川内村の計13町村では8月に開催される。

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この記事を書いた人
大久保泰
南相馬支局長
専門・関心分野
気象・防災、地域活性化、漁業