(ルポ激戦区 2024衆院選:5)「辺野古反対」押し出せず オール沖縄、変えた戦術
今月18日夕、那覇市の沖縄県庁前。共産前職の赤嶺政賢氏(76)は、玉城デニー知事や田村智子党委員長、立憲県連幹部ら「オール沖縄」勢力の顔ぶれと並んでマイクを握った。強調したのは経済政策。「最低賃金全国一律1500円。引き上げを実現する」
「オール沖縄」は、米軍普天間飛行場(宜野湾市)の名護市辺野古への移設反対でまとまった勢力だ。誕生後に迎えた2014年の衆院選では県内全4選挙区で勝利。以来この10年、移設を容認する自民候補と対決する選挙戦が繰り返されている。
赤嶺氏も14年以降、沖縄1区で3連勝。今回も立憲や社民などと協力し、共産として全国唯一の小選挙区議席の死守をめざす。
ただ、今回の選挙戦は、様相が少し異なる。赤嶺氏は演説で「辺野古新基地建設ストップ」と言及はするが、SNSや選挙公報で「辺野古」を前面に押し出していない。
3度の知事選や19年の県民投票などで「辺野古反対」の民意が繰り返し示されてきたが、自公政権は無視し続けている。昨年12月には、知事の権限を奪う「代執行」を実施。前例のない手法を駆使してまで工事を強行している。
政府に無視されることが見えている中で、「埋め立て阻止」を訴えて響くのか……。知事周辺は「『絶対に埋めさせない』と言っていた頃と比べ、フェーズは変わった」と吐露する。
「オール沖縄」を主導した翁長雄志(たけし)知事は18年に死去し、経済人ら保守層の離反が進む。組織はきしみ、6月の県議選では立憲と社民が候補者を調整できない選挙区も生じた。今回の衆院選も、沖縄4区ではれいわが独自候補を立てて分裂選挙の様相となり、1区も直前までれいわが候補を立てる動きを見せていた。
赤嶺氏は鍵となる無党派層への浸透をはかるため、くらしの課題を訴え、「基地問題一辺倒」ではない姿勢を強調する。陣営関係者は危機感を募らせる。「ここで議席を落とせば、国に『オール沖縄は終わった』という誤ったメッセージを送ることになりかねない」
■自民県連、本部と距離も
赤嶺氏に3連敗してきた自民前職・国場幸之助氏(51)の陣営は「攻勢」に出る。国場氏は18日、那覇市内で開かれた集会で「沖縄から日本を変えていく」と声を張り上げた。物価高対策のほか、辺野古移設を前提とした普天間飛行場などの跡地利用で「アジアを牽引(けんいん)するような産業振興をはかる」と呼びかける。
自公は、22年の那覇市長選で8年ぶりに勝利。今年6月の県議選では16年ぶりに自公側が過半数を奪還した。「オール沖縄」側にいた経済人らも支援につき、自民県連幹部は「保守票が戻る動きが加速している」と自信をのぞかせる。
ただ、盤石とはいえない。もともと国場氏や県連は民主党政権時代、普天間飛行場の「県外移設」を訴えていた。しかし自民が政権奪還し、石破茂首相が党幹事長だった13年11月、「容認」に転じた。
石破氏と並んで国場氏ら沖縄選出の国会議員がうつむく姿は、日本が明治時代に琉球王国を解体し、沖縄県を設置した「琉球処分」になぞらえて「平成の琉球処分」と呼ばれた。この時の自公政権への反発は、今も県民に根強い。
加えて、党派閥の「裏金」の問題や、世界平和統一家庭連合(旧統一教会)側との接点をめぐる問題など、全国では自民に逆風が吹く。県連内には、党本部とは一線を画したいとの思いもある。
公示前の国場氏の事務所開きであいさつに立った島袋大・県連会長は、こう強調した。「今回の選挙戦、自民党は色々言われているが、『沖縄自民党』として政府や自民党(本部)に対しやるべきことはたくさんある」
沖縄1区には他に元郵政民営化相で無所属元職の下地幹郎氏(63)、参政新顔の和田知久氏(64)も立候補している。=おわり(棚橋咲月、小野太郎)
■沖縄1区
下地幹郎 63 無元(6) 〈元〉郵政民営化相
国場幸之助 51 自[比]前(4)〈公〉 国交副大臣
和田知久 64 参政新 琉球大教授
赤嶺政賢 76 共[比]前(8) 党県委員長
※届け出順。敬称略。氏名に続く年齢は投開票日(27日)時点。比は比例区と重複立候補。カッコ内数字は当選回数。〈 〉内政党は推薦