(後藤正文の朝からロック)クラファン始めて、見えたこと

後藤正文の朝からロック

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 製作費や機会に恵まれないミュージシャンが安い料金で利用できる、滞在型のレコーディングスタジオを仲間たちと企画し、建設を進めている。築130年の土蔵を、その天井高を活(い)かしたスタジオに改築し、隣接するビルをコミュニティースペースやゲストハウスとして運営する予定だ。

 土蔵の改築と防音には想像以上に資金が必要で、クラウドファンディング(CF)を利用することにした。社会的な課題に取り組むことを目的としたプロジェクトや創作のいくつかを支援したことはあったが、プロジェクトを主催して支援を募るのははじめてだった。

 支援する側に立ったときには、自分が直接的に参加することが叶(かな)わない社会的な取り組みや、面白い企画に参加できることがありがたかった。様々な場所で意見を述べ合うことも大事だが、それだけでは自分が何か役に立っている実感は得られず、無力感に苛(さいな)まれることもあった。自分の力は相変わらず小さいが、何らかのプロジェクトの達成に関われたときには誇らしい気持ちになった。例えば、北九州の困窮者支援団体、抱樸(ほうぼく)が建設する複合型社会福祉施設「希望のまち」のCFには、1億円超の支援が集まった。

 支援を募る側に立つと見える景色が違う。なるべく多くの資金を集めなければ、建設費に目処(めど)が立たない。経済的に恵まれない人を支える相互扶助のような考えを元にした活動ではあるが、レアな返礼品を作って高額な支援を募るという資本主義的な性質を利用していて、感謝のなかに後ろめたい気持ちが混ざる瞬間もあった。

 助けることよりも、助けてもらうことのほうが難しいのかもしれない。援助によって状況が好転したにもかかわらず、負債感や義務感に苛まれる場合もある。誰かを助けることも、自分が助けてもらうことも、もっと上手になりたいと思った。(ミュージシャン)

 ◇毎月第4日曜日に掲載します。

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