新聞やネットの記事にいろいろ目を通してみると、今年の大会で3回戦の早稲田実v大社とか昨日の準決勝・神村学園v関東第一を、いい試合だったとか史上最高、あるいは神試合、奇跡のバックホームなどと書いているのが目に留まる。しかし、わたしには少し大げさな気がするし、ちょっと言い過ぎだと思う。

わたしはほかの人と見ているところが違うので、同じ試合を同じ場所で見ても視点が違っていて、いい試合と考える基準が異なることは知っているつもり。ただ、早実v大社の9回裏は、同点となる走者の出塁は内野手の悪送球が原因でしょう。しかも、バックアップに入った捕手が、イレギュラーして転がってきた送球を後ろに逸らして打者走者の二塁進塁を許したわけで(これ、知らない人が多いみたいだけど、ちゃんと球場で見極めていますよ)。最初わたしは、打者走者の出塁は二塁手の失策、二塁への進塁は捕手の失策(E4、E2)となるのではないかと思いながらスコアボードを見ていたわけで。そんな感じでスコアをつけていたら、いい試合だなぁなどという思いが去来することもなかったけどな。まぁ、感じ方は個人差があると思うし、人それぞれなので、他人の思いを肯定することも否定する必要もないでしょう。

ではわたしの場合、どんな試合をいい試合だったと思うのかをしばらく考えてみた。おそらく、勝った側から見ていい試合であるとともに、敗れた側から見てもいい試合であることが、その基準ではないかと。例外的に、大会規定による引き分けというのもあるけどね。過去10年ほどの間で『これはいい試合だった!』と思える試合を、いくつか列記してみようと思う(知らない人の方が多いのでしょうがご容赦ください)。

最初に思い浮かんだのが、2019年選手権1回戦の習志野v沖縄尚学。この試合は守備位置を変える習志野野手陣の間に沖尚学の打球が何度か飛んで、中盤までの試合の流れは完全に沖尚学だった。満塁からのランニングスクイズで沖尚学が勝ち越す場面は、それぞれの走者のスタートするタイミングが違っていたので、スタンドにいて選手の戦術理解の深さに驚愕するとともにその恐ろしさに震えたものだ。しかし最終回の攻撃で習志野は盗塁を足掛かりとして好機を広げて同点に追いつき、延長戦で勝ち越して逃げ切った試合だった。今と同じようにスコアをつけながら見ていたが、習志野の勝負強さが光ったことが記憶に残っている。

次。2015年選手権1回戦の東海大甲府v静岡。この試合は両チームともに積極的に次の塁を狙う姿勢を貫いて攻撃的な試合となり、最後まで点の取り合いになるもつれた試合だった。走者が動く回数が多くて帳面に付ける内容が増え、わたしの筆記量がとても多かったと記憶している。このような試合になると、いい試合だったとわたしの記憶に残ることが多いような気がする。平日に開催された大会第2日の第四試合で、それほど観衆は多くなかったけどね。試合後、涙ながらに通路に引き上げていく静岡の選手諸兄の姿が今でも忘れられない。

最後にもう一試合。2017年選抜2回戦の健大高崎v福井工大福井。2試合連続で引き分け再試合となった日の試合といえば、わかる人がいるのかも。健大高は打者ごと一球ごとに守備位置を変えるけど、この試合では福井の放った打球がその逆を突いて何度か飛んだため、この試合の筆記量は尋常ではなかった。しかも、健大高が土壇場で意表を突いた盗塁で同点に追いついたり、延長戦では悪送球があったものの外野手の俊敏なバックアップで打者走者を憤死させる場面があったりして目の離せない展開となり、雨中ナイター延長戦という状況を抜きにしても、物凄い試合だったという記憶しか残っていない。

…と、これくらいですね。今年の大会でこの3試合を凌駕する試合にはめぐり会わなかったと思っていますが、長きにわたってたくさんの試合を見過ぎると、感性がだんだんぼやけてくるのかもしれないです。でも今後の人生においてこの3試合を超える試合に出会えることを願っています。