野村克也さんは「超」のつく愛妻家だった。だが妻・沙知代さんとの人生は、山あり谷あり、もっと大きな谷もあり、だったように見える。脚本家の橋田壽賀子さんに「夫婦の謎」を解いてもらった。
橋田壽賀子 1925年生まれ。代表作に「おしん」「渡る世間は鬼ばかり」。著書に「安楽死で死なせて下さい」など。
――橋田さんは昨年末、NHKの番組で野村克也さんと対談なさっていますね。
「ええ。私は大阪の南海電車沿線で育ちましたので、プロ野球は南海ファン。野村克也さんは憧れの人でした。監督としても名声を高められたので、一度お会いしたいと思っていました。お互い伴侶を亡くした者が話し合うという企画をNHKからいただき、喜んで出かけたのでした。ご夫婦の行きつけだった東京のお寿司(すし)屋さんでした」
――どんな印象でしたか。 「番組で流れた通りでしたね。対談にならなかったのです。だって野村さんはほとんど何も話さず、こちらが何を言っても、ただ『独りになって寂しいです』と言うばかりでしたから。私の目も見ずしょんぼりしていました。励ましても反応が薄いし、しょぼくれて情けない姿に心底、がっかりしました」
――静岡県熱海市の橋田さん宅にも訪ねてこられました。
「1回目にあまり話さなかったので、私に申し訳ないと思われたからでしょうか。ほんの少しだけ前向きになられたように感じました。海に沈む夕日をずっと眺めていたのが印象的でした」
――野村さんにはお子さん、お孫さんという家族もいらっしゃいますね。
「ええ、ご子息の克則さんのお宅が隣にあって、お孫さんもいる。本当の『独りきり』とは全然違いますよ。でも、『一日中独りぼっちだ』とこぼすのです。家族というより夫婦が全てで、野村さんから沙知代さんをマイナスすると、ゼロになってしまうんだとわかりました」
――ホームドラマを描かれてきた橋田さんから見て、野村さんがそこまで「沙知代さんが全て」だったのはどうしてでしょう?
「私は一時期、民放のレギュ…
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