国内23万人、隣のイスラム教徒たち 中古車ビジネスも平和な祈りも
ミニバン、タクシー、軽トラック――。さいたま市岩槻区浮谷の簡素なプレハブ小屋の前に、車が山積みになっていた。どれもナンバープレートがない中古車だ。
プレハブの正体は、祈りの場であるモスク。礼拝のある毎週金曜正午になると、近隣で中古車ビジネスを営むムスリムたちが続々と集まる。仕事の手を止めてシャワーを浴び、油の染みた作業服から、ゆったりとしたパジャマのような民族衣装に着替えてやってくる。
近くにモスクの管理人イクバール・パルべーズさん(59)が経営する会社がある。1990年代に来日し、中古車部品を輸出するビジネスを始めた。山積みの車はイクバールさんの会社の「在庫」だという。
中古日本車、ここから世界へ
岩槻には埼玉県内有数の中古車オークション会場がある。そこで購入した車を解体し、部品をコンテナに詰めるための広い土地が確保できる立地の良さから、周囲には中古車会社が点在する。「近くで働くムスリムが来やすいように」と、イクバールさんは4年前にモスクを建てた。
モスク裏の事務所をのぞくと、日本人がいた。イクバールさんのビジネスパートナー、田中恵介さん(53)だ。友人に誘われ、この世界に飛び込んで6年。「ふたを開けてみればバイヤーの80%はパキスタン人だった」と驚く。田中さんが知るだけでも、パキスタン人が経営する中古車会社は岩槻に30~40社あるという。「自分で事業を立ち上げて食べていくという意識が強い。尊敬してます」
11月上旬、イクバールさんの会社の作業場を訪れると、数人の従業員が様々な工具の金属音を響かせていた。オイルのにおいが時折鼻をつく。タイヤやエンジンミッション、座席シートなどが慣れた手つきで次々に取り外されていく。車が外枠だけになるのに2時間もかからなかった。
実は身近な隣人となっているイスラム教徒たち。どんな人たちで、日本でどんな暮らしをしているのでしょうか。全国でモスクが最も多い埼玉県で、日本のムスリム23万人の今を追いました。
作業を監督するのは長男のフ…