人生の最期をどこで 自宅、病院、施設…それぞれの「お看取り」

内科医・酒井健司の医心電信

酒井健司
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 多くの人にとって、事故やよほどの急病でもない限り、死亡する場所は病院だとお考えだと思います。死亡統計によれば、1950年ごろの日本では病院での死亡は10%強、自宅での死亡は80%強といったところでしたが、その後、病院での死亡が増え自宅での死亡が減り、1975年ごろに逆転し、2000年ごろには病院での死亡が80%強、自宅での死亡が10%強となりました。

 医学は進歩し、平均寿命は長くなりましたが、人はいつか死にます。治癒する可能性があるなら入院して積極的な治療を行いますが、そうでなければ死ぬ場所は病院でなくてもかまいません。心臓マッサージ人工呼吸などの延命を目的とした治療は行わず、苦痛を緩和する治療が中心になっての死亡を「お看取(みと)り」と呼んでいます。いい言葉だと思います。ぴったりとした英語に翻訳はできません。

 2000年以降、介護施設でのお看取りが増えて10%弱となりました。今後は、在宅でのお看取りも増えていくのではないかと考えます。訪問診療等の制度も整いつつあります。私の義父はがんだったのですが、よい訪問診療の先生と巡り会うことができ、数年前、自宅でお看取りしました。穏やかな最期だったと思います。

 新型コロナが流行して、病院や施設での面会が制限されるようになって、ご自宅でのお看取りの重要性は増しました。私の勤務する病院でも、入院しての治療の甲斐なく病態が悪化したご高齢の患者さんを、ご自宅に退院の上でお看取りした例があります。ご家族に見守られながら住み慣れた我が家で息を引き取られたそうです。ご家族の覚悟と、看護師さんや訪問診療の先生やそのほかの多くのスタッフのおかげです。

 私は入院患者さんを中心に診ていますが、病院でのお看取りが悪いわけではありません。病院は病院で、手厚い看護・介護を受けられる、ご家族が休める時間が取れるといった利点があります。訪問診療や訪問介護という制度はありますが24時間いつでもというわけにはいきません。介護できる人が少ないとご家族の負担が大きいときもあります。

 在宅でのお看取りの方針であったはずなのに、状態が悪化したときに気が動転して家族が救急車を呼んでしまったという事例も聞きます。病院でのお看取りのほうが安心できるご家族もいらっしゃるでしょう。施設でのお看取りも施設ならではの良さがあるでしょう(私の母方の祖母は施設でお看取りしました)。患者さんやご家族が死にたい場所を選べるようにできること、そのための支援が十分にあることが大事です。

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酒井健司
酒井健司(さかい・けんじ)内科医
1971年、福岡県生まれ。1996年九州大学医学部卒。九州大学第一内科入局。福岡市内の一般病院に内科医として勤務。趣味は読書と釣り。医療は奥が深いです。教科書や医学雑誌には、ちょっとした患者さんの疑問や不満などは書いていません。どうか教えてください。みなさんと一緒に考えるのが、このコラムの狙いです。